Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第30回−9

1877年5月16日 水曜日
雨と霧のために出発できなかったので、奈良屋で三、四日過ごし、今朝私たちは再び車を連ねて出発した。
小田原で昼食をとり、またどんどん進んだ。
一人の騎兵が私たちの前を馬に乗って通っていったが、何度かマントを落とし、それをヤスが拾い上げるのがとてもおかしかった。
ヤスが拾って手渡すたびに、騎兵は笑みを浮かべながら振り向き、お辞儀をして、跳ねる馬の歩調を緩めるのだった。
私たちがゆっくりしているので、ウィリイはさっさと先に行ってしまった。
七時には、月明かりの他は提灯もなく、寂しい道を進んでいた。
大分時間が経った時、陽気に歌を歌って荷馬を引いている男に出会ったが、その人は歌――というよりは騒音――をやめて、先に行ったウィリイのことを色々話し、今どこにいるか教えてくれた。
それを聞くと私たちは嬉しくなり、元気が出て道を急いだ。
暗闇では誰にも分からないだろうと思っていたのに、藤沢に入ると、若い女の人が呼びかけて、ウィリイがここにいると云ったので、私たちは止まった。
その旅館の畳は汚く、建物は古臭かったけれども、皆感じの良い人たちだったので、そこに泊まることにした。
母は按摩を頼んだのだけれど、目の不自由な人ではなく、とても穏やかないい人だった。
その人が母を揉んでいる間、私はその人と面白い話をしたが、彼は私を見続けていた。多分私のように太った身体を揉んでみたいと思っていたのだろう。
その人が出て行こうとした時、私は百足を殺してしまった。毛布の上を這っていたので、残酷にもそれに飛びかかったのだ。
「ど、どうしたのですか!?」
按摩さんは吃驚して尋ねてきたので「百足がいたのです」と答えると少しだけ窘めるように云った。
「何も怖がることはありませんよ。大人しいからそんなに大騒ぎする必要はありませんから」
それから如何にも日本人らしく「貴女は日本語が大変上手ですね」とお辞儀を云って帰って行った。
お辞儀と云えば、アディの気の利いた言葉を思い出した。
色々な町を通っていると、女の人が私たちに何かと批評して、それも私たちの白い肌や、明るい色の衣服をお世辞に褒めることが多かった。
ある日何人かの女の人のそばを通り過ぎた時、アディが私に云った、
「クララ! 私美しいんですって」
私は何故か少しカチンと来て言い返す。
「ああ、あれは日本人のお世辞に過ぎないのよ」
「そうね、多分そうね」とアディはため息をついたのだけれど、少ししてから云ったものだ。
「でも私、まんざら嘘じゃないと思うわ」
さて藤沢の話に戻ろう。
寝る用意をしていると、通りで凄まじい音がした。窓にすっ飛んで行って見ると、一人の若者がブリキのやかんに紐をつけて地面を引きづりまわしていた。
別の一人が鉄の輪をたくさんつけた棒を、もう一人は先を箒のように割いた竹竿を持っていて、それを引きづるとひどく変な音がするのだった。
この3人はこの騒音に加えて、まるで敵の軍隊が攻め寄せて来るときのような恐ろしい叫び声をあげていた。
「なんでもありません、あれは藤沢消防団ですよ」
女中はそう言うけれど、何故消防団がこんな騒音をたてるのか見当もつかない。