Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第32回−4

1877年6月23日 土曜日
「奥様、お嬢様、わたし、このたび熊本に行くことになりまして」
今朝夢中で仕事をしている時、テイが突然そんな話を切り出したので吃驚した。
熊本と云うことは、今起こっている薩摩との戦に駆りだされるのだろう。
雷に打たれたようで、何もかもお手上げだという気持ちになった。
テイはセイキチやウメよりずっと役に立つからだ。
「これでまた随分経費の節約になるわね」
母は楽天的にそう云うけれど、でもテイを手放すのは残念である。
テイは大人しくて態度も丁寧だから、私たちは彼に愛着の念を抱いている。
二年ばかりうちにいるけれど、その間テイが怒ったり小言を云ったり、意地の悪い行為をしたのを見たことがない。
いつも喜んで仕事をし、従順で注意深く、よく働いてくれる立派な人なので、とても信頼していた。
生まれつき臆病で気迷いする質だから、今度つくという兵隊の職務は合わないという気がする。
最初の交戦で撃たれないにしても、騒ぎと混乱で死ぬほど怯えてしまうだろう。
ああ、テイさん、血生臭い戦場で手柄を立てるより、家で静かに坐っていた方が貴方のためにずっといいのに。
しかし、一番困るのは、テイの仕事全部を私がしなければならなくなるだろうということだ。
私は家事が好きだから、それもいいことかも知れないが。
一日中テイは悲しそうで、沈んだ顔をしていた。
「自分は行きたくないのです。ですが、このたび殿様が昔の家臣に出兵を呼びかけた際、実家のものがわたしを登録してしまったのです」
テイは桑名の生まれで、兄弟も従兄弟も招集されて行くので、テイも兵籍に入れられたのだ(ちなみに、我が家に来たことのある松平定敬氏は桑名藩の最後から二番目の殿様であり、父の片腕である高木さんも旧の桑名藩士だ)。
テイは先週、友達に一緒に来るように説得されて、いつもの優柔不断から、西の丸に行って訓練を受けることに同意してしまったのである。
テイは今夜行ってしまう予定で、台所仕事をする者は誰もいないことになってしまった。
ヤスは病気だし、クマにはする気がない。
「もう一晩だけいさせて頂きますから」
テイはそう云ってくれたけれど、私たちの困惑は四方八方から積み重なって増すばかりだ。
だけど、物は考えよう。
我が家の生活は決して暗くはならず、前よりも天の神様が親しく感じられる。
私は今日とても忙しかった。全部の部屋を掃き、拭き、整頓したが、大変気持ちのよい仕事だった。
部屋が自分の手で綺麗に清潔に上品になっていくのを見るのは嬉しい。
神様が混乱、暗闇、混沌の中から、秩序、美が生まれるのをご覧になってどんなにお喜びになったかが分かる。
午後、母と外出して麹町の骨董屋を漁った。
人込みは大嫌いで、よくいらいらしてしまうが、美しい物を見たり、自分の知っている日本語を使うのは好きだ。
事実、日本語ができることが自慢になってきているのではないかと思う――まだあまり誇れるほどのものではないのに。