Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第32回−9

1877年7月17日 火曜日
おやおさんがまた勉強を続けることになった。
ウィリイは昨日松平家へ行って、アメリカから帰国されたばかりのご亭主に会って来た。
三年ばかり前に松平康倫氏、松平定教氏、南部栄信氏の三人の若い殿方がアメリカへ渡った。
南部氏は去年帰国して亡くなり、そして今、康倫氏も同じ病気――肺病で帰国された。
ウィリイが云うには、大変痩せておいでだが、アメリカへ帰って勉強を終えたいと切に望んでいらっしゃるそうだ。
今日母と村田家を訪ねた。
探すのに少し手間取ったが、着いてみるとその苦労は十分報われた。
お父様の林氏とご一緒に住んでおられる家は大きく風通しのよい綺麗な日本家屋で、家具は半分洋風である。
お父様の客間は非常に綺麗だった。
本やアルバムや絵や骨董品があり、刀が三本のった刀架もあった。
私はそれが見たくてたまらず、とうとう村田氏に頼んで見せて貰った。
村田氏はとても親切だけれど、私の好奇心には気が付かなかったのだ。
お母様がお茶とお菓子と氷入りのレモネードを持ってきて下さったので、この暑い日にはとても嬉しかった。
村田氏はご自分の小さな家へ連れて行って下さったが、それは洋風の造りだった。それから白い立葵の花も頂いた。
二時間くらいお邪魔しているうちにお父様にお会いしたが、耳に腫れ物が出来て具合がお悪かった。


その後で、杉田先生の家へ行き、そこで三浦夫人とアイちゃんに会った。
とても気持ちよく迎えて頂き、およしさんは花の咲いている庭を案内して下さった。盛と六蔵ちゃんも一緒だった。
庭は狭いが大変綺麗で大きな広い葉の睡蓮が一杯花をつけて、空中に芳香を漂わせていた。
何もかも実に静かで、妖しい感じさえした。
澄み切った月が、築山と池と花の上に昼間では見られない美しい光の輪を投げかけ、月見草と呼ばれる花が、可愛い花びらを月の女神の光の方に向けている。
私たちはこの蓮と月と花の醸し出す情景にうっとりしながら、手に手を取って歩き回った。
それからお化け遊びをして驚かしあった。
六蔵ちゃんはとてもおどけて、古代の勝利者のように扇子を高く頭上にかかげて後ろにやり、片足をもう一方の足の前に出して暗い隅から急に飛び出して来た。
長い袂が軽やかに後ろに靡き、陽気な丸顔から漆黒の髪の毛が風で持ち上がるさまを月光のもとで見ると、実にあどけなく美しかった。
溝の上に半分壊れて反った汚い小さな板が渡されているところへ来ると、六蔵ちゃんは云った。
「あ、ここに天神様の太鼓橋があるよ」
盛によると、杉田家は八百年前から続く家柄で、前は佐々木といったそうだ。
「うちの家系は6千年に遡れて祖先の名はアダムと云ったのですが、ホイットニーに変えたのですよ」
村田家は六百年で、家柄は三蓋菱といい、三層の菱形がついた紋である。
徳川家は二百五十年だが、それなら我が家と同じだ。
リチャード・ホイットニーがメイフラワー号で渡って来てきたのだから。
だけど、永遠の世界に較べると、人間の生命など、なんと小さなものだろう!