Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第33回−10

1877年8月6日 月曜日
モクリッジお祖母さんがコレラで亡くなったのは、今から丁度二十八年前のこと。
発病から、たった六時間後だったそうだ。
今これと同じ恐ろしい病気が東京に向かっているというので、皆大変心配している。
日本はこのような病気にはうってつけの場所だ。
というのは、日本人は身体や家は非常に清潔にしているけれども、疫病を育てるのに最適な下水や便所が至るところにあるからである。
首都では凄い勢いで広がることだろう。
どうかここまで来ませんように。
今朝、開拓使の役人、吉沢郷党氏がきらきら光る絹の羽織姿でうちに現れたのでとても吃驚した。
「どうぞゆっくり、暇ですから待っています」
朝食をとっている時だったのでそう云われたのだけれど、その言葉通り、一時までずっとおられた。
「キョウトウ・ヨシザワ」
そう英字で名前を書いた自分の写真と、手製のブランデー漬けの桃とカステラを一箱下さった。
吉沢氏は愛想がよくてお世辞がうまい。
幸運にもあの日、母が行った時には、何日も前から見事な桃の腐ったのが地面にごろごろしており、どうしたらいいか誰も分からなかったそうだ。
「しかし今はこちらの奥様が保存法を教えて下さったお陰でとても助かっています」
にこにこしながら、吉沢氏は云った。
随分長くいるので、私たちは代わる代わる客間で対応した。
私が寝室を整えている間はウィリイが、ウィリイが二階に行くと私が下りて来てお相手をし、日本で問題になっている事柄について沢山話をした。
「外国の商人は、日本に古いがらくたばかり送ってきて困ります。古い汽船、古い汽車、古い服や上着や帽子や靴。そんなものばかりです」
吉沢氏が云う通り、事実、時代遅れで売り物にならないものばかりが日本に来ている。
「特に蒸気船が!」
やけに力を入れてそう云うので、詳しく聞いたら凄い経歴の持ち主だった。
「私は乗った汽船が二度も沈んだり爆発したりしているのですよ? もう二度と汽船には乗るものですか!」
そう云う割に、船客が吃驚した時の描写は生き生きとして面白かった。
飛び上がり、目をくるくる回し、唇を曲げ、引き裂かんばかりに羽織を掴み、ただもう怖かった時の様子をして見せた。
私はきちんと坐っていられないほど笑い転げたので、吉沢氏は自分の無言劇の上手さにご満足のようだった。
「洋服に関してもそうです。日本人が古い物を掴まされ、外国人はそれを見て笑うから、洋服など絶対着るものですか!」
確かに。
そう云えば、杉田家の大先生もとんでもない洋服を着ていたっけ。
髪は洋風に刈ってあるのだけれど、前にしていた髷のことを誇らしげに語られた。
それは察するところ、どうやらまさに棍棒のような形のものだったらしい。
大きな髷は地位と富の印なのだそうだ。
「また近いうちに来ます」
そう云って帰って行かれた。面白い人だ。