Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第34回−2

1877年8月21日 火曜日
今日はミカド、皇后陛下と内閣の主催する東京博覧会、つまり内国勧業博覧会の開会式の日だ。
昨夜は涼しくて気持ちよく、非常に眠りやすい晩だった。
今日は曇りで、とても涼しい。
昼食後、杉田家に出かけることにし、途中でお土産として外国の西瓜を買った。
家族は全員在宅で、武さんが――どちらかと云えばお痩せになったようだが――前と殆ど変わらぬ姿で入って来られ、ご病気のことと、これまで聞いたことのないような事柄について話し始められた。
胸の病気の方はよくなっておられるが、その他いろいろのことがあったらしい。
武さんのお母様は、武さんが箱に入れられて帰って来ると思っていらっしゃったという。
武さんのお友達が心配して福沢氏に手紙を書き、福沢氏がお母様に武さんの喀血のことを話されたのだ。
しかし今は快方に向かっていらっしゃる。
向こうの人について沢山面白い話をなさった。
最近アメリカでは日本に対する関心が高く、あちこちから質問攻めにあわれたようだ。
「日本人はいつ髪の毛を切ったのか?」
「日本ではずっと昔だ」そう答えると、ヤンキーは次のように云ったという。
「へえ、驚いた! 東洋人は皆弁髪を結って、絹の着物を着ていると思っていた」
武さんは「今では日本人は髪を切り、洋服を着ているのですよ」と教えるのが楽しかったそうだ。
吉田清成公使に関する珍談がある。
ある日吉田氏がホテルの応接室にいると、二人の外国人がやって来たそうだ。
しばらく話をしていたが、やがて一人が吉田氏に近づき「お名前は?」と尋ねた。
「ヨシダです」
「なんですって?」
「ヨシダです」
公使閣下は辛抱強く繰り返す。
その人は更にもう一度名前を云わせてから「ヨシダ」と呟きながら友達のところに戻っていき、とんでもなく失礼な発言をした。
「野蛮で未開な国は、名前を一つしかつけさせないのだな」
吉田氏はこれを耳にすると、すぐに「あなたは誰ですか」と聞いた。
「牧師です」
「キリストには何人使徒がいたか教えて下さい」
「勿論十二人」
「その人たちの名前はなんでしたか」
すると聞きたがりや氏は、ヤコブ、ペテロ、ヨハネ等々と列挙した。
そこで吉田氏は、澄まし顔で云われたそうだ。
「とてもおかしなことを教えてくれましたね! 名前が一つしかないということはら、キリストの使徒は皆野蛮人だったというわけですね」
その人はかんかんに怒ったが、吉田氏は以前と涼しい顔。
「いいえ、あなたがご自分でそう教えて下さったのですよ」
そのオランダの新教の牧師は赤くなって恥じ入ったということだ!


そのような方面での、アメリカ人の無知と無礼にはまったく驚く。
武さんはこのように低俗で好奇心の強い人々と随分接触なさったらしい。
サンフランシスコで清国人に対する暴徒に出会い、殺されるかと思うほど脅されたようだ。
四日の独立記念祭にも出席し、アメリカ初の大祝典もご覧になった。
リビーおばさんやロジャー夫人などにもお会いになった。
アメリカ人みたいに車に飛び乗ろうとして何回か落ちたが、努力の末うまく出来るようになられたそうだ。
日本でのように好意を示してくれない人々と交わったりして、察するにかなり辛い目に遭われたらしい。
何しろ杉田玄瑞氏のような素晴らしい方の令息として大事にされ甘やかされて育った方だから。
十八歳の弟さんが入って来られたけれど、初めて私たちに興味を持たれたようだった。
やはり青白い顔をしているが、武さんよりはずっと男らしい感じの方だ。
このほっそりとした黄色人種若い人たちの中に混じって床に坐っていると、太った手足と短いむちむちとした指を持ち、右頬に小さな腫れ物のできた幅広い丸顔をした自分が「巨人」みたいに感じられる。
武さんは、およしが望み通り英語を習いにうちに来てもよいと云われた。
アメリカへまた帰りたがっていらっしゃる。