Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第37回−5

1877年12月24日 月曜日
朝から一日掛かりで庭師が玄関、居間、食堂、表のベランダなどに飾りつけをしてくれて、クリスマスの準備が整った。
富田夫人が、笠原を手伝いに寄越してくださったが、背が高いので色々と役に立った。
矢野氏が見事な絹のハンカチを届けられた。
午前中にビンガム夫人を訪ねて、私の作った綺麗な青い針刺しを贈った。


メリークリスマス!!
今朝私は喜びに溢れて日の出を迎えた。昨夜芝で聞いたクリスマスキャロルの言葉が耳に残っていた。
「みつかいたちのたたへのうたを……」
私たちは皆早く起きて仕事にかかった。
使用人たちは誰一人クリスマスツリーを見たことがなくて、どうするのかまるで分からない。
ツリーの飾りつけをしているところへ、ド・ボワンヴィル夫人が手伝いに来て下さった。
しかし、連れて来られた赤ちゃんがむずがるので、間もなくお帰りになった。
夫人はマリーには日本語しか使われない。
けれど、あんな可愛い赤ちゃんに変な日本語を教えるのは可哀想――夫人の日本語は片言の日本語で、教養のある日本人には通じないようなものだからだ。
午前中ずっと日本人の友達からの贈り物が次々と届けられた。
おやおさんは私たち一人一人に綺麗な贈り物を沢山届けて下さった。
私宛にやさしい手紙がついていて、その書き出しは『親愛なる我が師』であった。
私はこの「親愛なる我が生徒」を誇りにしても許されるであろう。
最初に私たちのところへ来た時には、英語を全然知らなかった。
しかし、私が教え始めてからどんどん上達して、今では何年も勉強してきた大勢の学生にひけを取らない手紙が書けるようになったのだ。
『康倫様の病状が思わしくありません。義母もただ狼狽えるばかりで、残念ながら今宵のお招きにはあずかれません』
手紙にはこう書いてあった。
可哀想なおやおさん。きっと失望しているに違いない。私も失望した。
おやおさんはキャロルをとてもよく覚えていたので、私はその柔らかい声をみんなに聞かせたかったのだ。
笠原も贈り物を持って来た。
盛もみんなに贈り物をくれた――母には妙な形の小箱と財布、父には本一揃い、ウィリイにはカフスボタン、アディには玩具、私には綺麗な箱。
およしさんからは可愛い硯と筆の一揃い。
滝村氏は直接みえて、みんなに漆器を下さった。母には特別で二枚の美しい果物皿を下さった。
三浦夫人は母に大きな見事な飾り棚――世にも奇妙な作りである――とアディと私には綺麗な簪を下さった。
富田夫人は父と母に二つの妙な花瓶、ウィリイにはカフスボタン、アディには鞠と簪、私には綺麗な絹のスカーフと簪を下さった。
一番立派な贈り物は村田氏のだった。
それは竜の絵のある薩摩焼の香炉であった。古い形の実に実に見事なもので、外国の人たちみんなに羨ましがられた。
アディと私には、ピンクや赤のネクタイやスカーフを下さった。


勝海舟氏の贈り物は豪華なもので、届け方も素敵だった。
四人の男が担ぐ担架に載せられて来たのだ。
封建時代の大名がお互いに贈り物をする時は、こういう風にしたのだろうと思われる。
美しくはないけれど、魅力的なあの緑の風呂敷に包まれてきた中身は、色々の見事な贈り物。
母には素晴らしい日本の台と蒔絵の箱、お菓子一箱、卵一箱と、三つの奇妙な形の象牙の彫刻――これは珍しいものだ――ウィリイには茶器一揃いと台所用品。
父には、骨董品を幾つか、アディには色々のお菓子と玩具。
私には日本のお菓子を一杯詰めた美しい重箱。
この他にも私たちは、色々の綺麗な贈り物を頂いた。


五時に大久保氏がみえて、面白い形の茶瓶と綺麗な掛け物を下さった。
私たちがまだ準備を完了していなかったので、箱やキャンデーを並べるのを手伝って下さった。
富田氏と、勝家の方々と、滝村氏の方々が、次に来られた。
皆よそ行きの着物でとても綺麗だ。
お逸の姉の孝子さんの長女のお輝ちゃんは髪から何から大名のお姫様のような姿。
大久保氏はお客様の相手をして下さったけれど、なんとなくお逸に一番関心がおありのようだった。
視線が何度もお逸の方を追い求めていたからだ。
……お逸は綺麗だし、いい人だからそれも不思議はないのだけれど、少しだけ胸がチクチクした。
徳川様のご令弟、若い田安公は謹厳な二人のお伴を連れて来られた。
その他、はにかみやの林恒五郎氏の顔。およしさんの控え目な上品な姿。六蔵ちゃんの快活な黒い目。
村田氏の背の高い気品のある姿などが、私たちの綺麗な客間に見られた。
私は村田氏の優雅な物腰に魅力を感じる。
今は指を怪我して三角巾で吊っておられるが、高貴な海軍将校なのだ。
エマとウィリイ・ヴァーベックも来ていた。
ビンガム夫人は短時間だけ、飾りつけのできたクリスマスツリーを見に来て下さった。
ツリーはとても綺麗で、子供たちはその周りに坐っていた。
富田氏は大変ご機嫌だった。
「まあ、本当にアメリカ人だわ」と仰ったのはビンガム夫人。
ご馳走を廻して、めいめい自由を取って頂く形式の夕食を済ませてからゲームをした。
参加者の中では富田氏が一番一生懸命だった。
「狐とガチョウ」のゲームをしていた時に、盛が上手な洒落を云った。
日本語の「鬼」は「悪魔」という意味なのだが、ゲームの途中で盛が叫んだのだ。
「鬼は誰?」
梅太郎が「私だ」と云うと、途端に盛が云った。
「サタンよ、退け!」
そのやりとりに、みんな大笑いとなった。
大久保氏は、徳川家にも行かなければならないので早めにお帰りになり、ビンガム夫人もおうちにお客様があるのですぐ帰られた。
皆さんに小さい贈り物を上げたが、皆から頂いた立派なものとは比べものにならない。
ただほんの記念に差し上げたものだ。
皆さんとてもゆっくりしておられて、子供たちは大変楽しかったと思う。
大人の方々も喜んでおられた。
おやおさんが来られなくて、本当に残念だった。
この子供たちがみんな心の中にキリスト様を見出してくれますように。