Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第39回−1

1878年1月20日 日曜日
今朝はウィリイやアディと一緒に、日曜学校へ歩いて行った。
メイが時間までに現れなかったからだ。
日曜学校でも見かけなかったので、多分お休みしたのだろう。
真面目なユウメイが珍しいこともあるものだ。
ところで、ユウメイの義父であるマッカーティ先生が私たちの家の真向かいの森氏の家に入ることになったのは嬉しい。
つまり、ユウメイとは「お隣同士」になるわけだ。
それと。
森氏が清国で殺されたという噂は嘘と分かってよかった。
本当だったら、形式上森氏が借りた家に住んでいることになっている私たちは路頭に迷うしかなくなってしまうからだ。
クラレン先生は横浜へ説教に行かれたので、今日の日曜学校の先生はインブリー氏だった。
パウロ改宗の話で、とても面白かった。
礼拝ではタムソン先生のお説教があったが、私は風邪で気分が悪くなり、お説教の前に帰ってきてしまった。


備前橋を渡っている時に、袱紗に包んだものを手に持った少女に出会った。
彼女は下駄履きでゆっくり歩きながら小さい声で歌っていた。
すれ違ったときに私の耳に入ったのは「偶像を崇拝する事なかれ云々」という言葉。
ちょっとした出来事だったけれど、私は思わず目頭を熱くした。
可愛いお嬢ちゃん。
あなたが何気なく口ずさんだ歌の意味が分かっていらっしゃるのでしょうか?
そして十戒を守っているのでしょうか? 
私は道を歩いている貧しい身なりの飢えたような人々と、その向こうに建設中の巨大なお金のかかった寺院――偶像礼拝のための寺院――と見比べて溜息をついた。
女の子は歌っている言葉の意味が分かっていなかったのかもしれない。
しかし、それでも思いがけないところで少女の歌を聴いてとても嬉しかった。
前にも一度家の門の前を通っていく人が小さい声で歌っているのを聞いたことがある。
「イエスは死者を愛し給う――天国の扉は打ち開かれ」
勿論日本語ではあったのだけど、ホームシックにかかっている私の耳には、その曲が懐かしく響いた。
奇妙な異国の歌、酔っぱらいが通りすがりに怒鳴っていく声、鼻歌交じりに帰って行く労働者の声、何やら呟いている陽気な男の子の声――私はそういう音を聞き飽きているのだ。
私の耳には故国の歌、とりわけ神様を讃える歌が懐かしい。


次に書くことは日曜日に関係のないこと。
月曜日にも火曜日にも金曜日にも関係のないことなのだけれど、私の気持ちを滅入らせ、悲しませること。
始まりは一年ほど前のことだ。
イービー氏が来て、宣教師仲間に流布させている、母についてのちょっとしたよくない噂話のことを母に話した。
こんなことを書くのは辛いけれど、事実なのだ。
母が日本人の間で受けがよくて影響力があることを宣教師たちは嫉妬しているのだ。
彼らから見れば、そういう仕事は宣教師の仕事なのだ。
母は、彼らの生徒を横取りしたり、彼らと関係のある人を自分の方へ誘ったりなど絶対にしていない。
それにもかかわらず、母が宣教師の権利を侵害していると感じているのだ。
それで祈祷会の席で、誰かが何の根拠もなく言い出したそうだ。
『ホイットニー夫人は宣教師たちに関するゴシップを故国に書き送っている』
その席に居合わせたイービー氏にその話をされ、イービー氏が母に話しに来たというわけだ。
母はそこでミス・ヤングマンに聞いたら、確かに母の噂が出たということを認めた。
ところが数日前のこと。
イービー氏が母にこんな事を書いて手紙を寄越したのだ。
あれはまったくの間違い。
イービー夫人はそんな噂話のことを、ご主人にも話したことがないし、そういう噂はない。
だからミス・ヤングマンに、あれは嘘だったと訂正して貰われないと困る、云々。
つまり、ミス・ヤングマンは母に「謝れ」と云うのだ。
そんな馬鹿な。
私たちは黙殺することにした。
ところが二、三日前のこと。
今度はミス・ヤングマンから、母にひどく失礼な皮肉たらたらの手紙が来た。
母はこれも黙殺した。
しかし私たちはこのことでひどい打撃を受けた。
十字架の教えを説きにくる宣教師たちがこんな人間だとは、私たちは夢にも思っていなかった。
なんということ。
私の眼が河であって、私の頭が涙の泉であったら、私は同胞の女たちの罪のためににざめざめと泣きたい。
結末はどうなるか分からない。
しかし、母は絶対に自分が嘘つきのゴシップ屋であるなどと認めることは出来ない。
そんな虚偽の告白なんてできない。