Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第39回−2

1878年1月21日 月曜日
母はいろんなこと、特にお金のことですっかり意気消沈している。
私たちの必要は大きい穴のようなもので、いくら生活費を注ぎ込んでも一杯になることはない。
それで、母は頭痛がして憂鬱病に取り憑かれてしまった。
借金をしないで何とかやり繰りする苦労で、気が狂いそうなのだ。
昨夜はそういう状態で母は早く床に就いた。
そのためディクソン氏がみえて夕食までいていて下さったのに、お会いし損ねたし、ためになるお話を伺うことも出来なかった。
夕食後私たちは心配事を忘れるために、元気よく散歩に出かけた。
母は歩きながら日本や日本人に対する嫌悪を並べ立てた。
しかしそのうちに、母はお店に気を取られて、骨董品や鹿皮に夢中になっていた。
我が母ながら、現金な物だ。
若い店主の居る毛皮屋の店に立ち寄ると、店主はにこにこして、取り入るような丁重な口調で私の日本語を褒めてくれた。
もっとも、それは中に隠してある、目に見えない釣針を私たちに呑み込ませるためのものだったかもしれない。
だから、私たちは呑まなかった。
「日本に来てから何年になるか?」とか「何処に住んでいるのか?」といった質問に答えながら、何種類かの毛皮を見てみた。
私たちは「“ダンナ”に相談してからまた来ます」と云った上で店を出た。
店の主人はそれでも機嫌よく私たちに頭を下げて送り出してくれた。
だけど心の中では「このトウジンたちにまたお目にかかることはあるまい」と思っていたであろう。
次に骨董屋で花瓶を買った。
「失礼ですが召し上がって頂けますか?」。
おかみさんが出してくれた御菓子をご馳走にになることにした。
「失礼」と思わないことを示すために、私たちは差し出された爪楊枝を取り、細い尖端に思い羊羹を突き刺して、危うく落ちそうになるのを、辛うじて少しずつ食べた。
それから銀座に出て、綺麗な店を見て回った。
ある飾り窓に美しい七宝焼きのお皿があって、欲しくてたまらなかったが、四ドルもした。
「三ドルなら買ってもよい」
母がそう云ってくれたので、私は店に戻っていって交渉してみた。
それでも店の主人は「五十セントしかまけられない」と云った。
店の人と話している時に「風月堂の者でございますが」という声がした。
振り返ってみると、両国にあるお菓子屋さんの見慣れたにこやかな顔がそこにあった。
後ろの群衆に押されながらぺこぺこお辞儀をしながら朗報を伝えてくれた。
「料理人が見つかりましたがいつ連れていきましょうか?」
私たちは「今夜来てくれるように」と頼んだ。
少し行くと今度は誰かが私の腕に手を掛けて「失礼ですがどちらへ」と云った。
ローザス夫人の聖書のクラスに来る人のよい老婦人だった。
「明日いらっしゃい」
私はそう云った。
晩に風月堂さんが、自分の所の料理人と一緒に、横浜で修行したという感じのよい料理人を連れてきた。