Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第39回−9

1878年1月30日 水曜日
今朝は是非横浜へ行きたいと思っていたのに、眼を覚ましたら雪がしんしんと降っていた。
雪は地面に触れると溶けてしまって殆ど積もらず、泥んこ道になるだけだったけれど、それでも一日中降り続けた。
みんな家の中に閉じこめられてお裁縫をしたり、頭痛に悩まされたりした。
誰一人訪れる人もいなかった。
ウィリイは学校に行かなかったけれど、父は勿論行った。
そして、父が学校で聞かされてきたことから、私たちの日本滞在もそう長くはないという感じがした。
もしも父が辞めさせらるのなら、三ヶ月の予告期間がある筈だし、その後六ヶ月は棒給をくれるべきべきだ。
今まで私はあまり役に立っていないので、少しでもためになることができるように、もっとゆっくり日本にいたいと思う。
といっても、私に出来ることは、苦労している母を支えるだけなのだけど。
お逸から短い手紙が来た。
小鹿さんのために肉のスープが欲しいというものであった。

1878年1月31日 木曜日
今朝学校から竹下寅吉が来た。寅吉は大鳥家の使用人でもある。
預かった来た大鳥家のお嬢さんからの手紙には、暗い知らせが記されていた。
「母は肺病が悪化し、もう治る見込みが全くないようです」
可哀想な方。
神様を信じるようになっていらっしゃればよいけれど。
アディはイーディス・ダイヴァーズのお誕生日パーティーに招かれて有頂天だった。
私たちは、あまり数の多くない衣装の中から着るものを見つけ、よそ行きの格好をさせるのに一騒ぎした。
三時に私が先方の家まで連れていった。
今まで大抵の時は私が一緒に招かれたので、アディが一人でよそへ行くのは生まれて初めてのこと。
というわけで、アディは向こうの家に着いた途端、怖じ気づいてしまった。
二人の間のドアが閉まるときにアディが私に見せた絶望の表情は、なんとも滑稽だった。
「クララ、どうしたらいいの?」
アディの震えた声が玄関の奥から聞こえてきた。
ダイヴァーズさんの家に行く時、間違って他の家に入っていったり、おかしいことばかりだった。
家に帰ってきたら、母が「勝氏のところへ届け物をして欲しい」と云った。
勝氏のおうちでは、とても楽しかった。
勝氏と小鹿さんは、親子仲良く揃っておたふく風邪をひいておられ、日本の食物が喉を通らないのだ。
それで私が持っていった牛肉のスープや、柔らかいプディングはとても喜ばれた。
それと、母が届けさせた桃のブランデー漬けも。
勝夫人やお逸――特にお逸――はとても親切で、私を下にもおかないように大事にして下さった。
門のところで、丁度帰ってゆかれる金沢先生とばったり出会った。
丁度ついさっき、勝氏のおうちにいる間に金沢先生の話を聞いた聞いたばかりだったからドキリとした。
「えっ? 矢田部さん、結婚なさるの!?」
お逸に聞かされて吃驚。
しかもそのお相手が、もう十年以上も英語の勉強をしておられ、母のところに勉強に来たがっていた金沢お録さんだと聞いて、二度吃驚。
更にとても小柄で十八ぐらいにしか見えない彼女が二十四歳だと聞いて三度吃驚した。
とにかくお目出たいことだ。
矢田部氏の心の傷が早く治ってよかった。
ダグラス夫人は「彼が失望に打ち勝つことはないでしょう」と云っておられたが。
兎に角、私としてはあの面倒な人を追い払うことができて有り難い。
あの自惚れと取り入るような態度は気に喰わない。
初めの珍しさが消えてからは、あの人が嫌いになった。
母は初めから嫌っていた。
第一、年齢のことで私を騙していた――もう二十八かそれ以上なのに、私には二十二だと云った。
とにかくやれやれだ。
ただ、つい最近ショー先生の聖公会の教会で洗礼を受けたばかりのお録さんの親交が、あの男のためにぐらつきませんように。
ちなみに、お逸は何故か二人とも大嫌い。
お録さんが無愛想なので、お逸はお録さんの家には絶対に行かない。
勝提督の息女、ということで、どうしても同世代の日本人の友人が少ないお逸が、本当によく知っている日本人の女の子はお録さんだけなのだけど、彼女としては生理的にお録さんを受け付けられないのだ。
「私が本当に親愛の情を持っているのは、クララ、あなただけよ」
お逸はしょっちゅうそう云っている。
実際、お逸は私にとっては本当にいい友達で、こんないい友達を与えられたことを神様に感謝しないではいられない。