Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第40回−1

1878年2月4日 月曜日
良いお天気なのに、授業に来たのは盛一人。
おやおさんが来なくなってから、学校がすっかり寂れてしまった。
お逸も小鹿さんの看病で来られないし。
でも使用人のことが片付くまでその方が有り難いかも?
あまりに良いお天気なので、お昼前に向かいの家にいるメイのところへ駆けて行った。
昼食後、母と一緒に車に乗って出かけた。
芝にある外国人仲間で「ペチコート通り」と呼んでいる通りや「泥棒横町」と呼ばれているところへ行ってみた。
つまり、使用人たちが家から持ち出した品を売るところなのだ。
私たちはうちでなくなったガラス器を探したのだけれど、結局見つからなかった。
役に立つもの、役に立たないものが一杯ごっちゃに並べてあるだけ。


それから浅草へ行って、大きな絹問屋の大丸に寄ることにした。
紅絹(もみ)を見せて欲しい」
腰を下ろしてそう云うと、番頭が深々と頭を下げて、私に火鉢と煙管を差し出してきた。
物珍しさから(実際に吸うなんてとんでもない!)私がその女物の長い煙管を取り上げると、すっと脇から煙草が差し出された。
「どうぞ一服召し上がって下さい」
若い番頭さんはごく自然にそう云った。
いく通りもの紅絹を見せて貰ったけれど、どれも気に入らなかったので、他の品を出して貰った。
その番頭は器用な手つきのお世辞の上手い、おかしな人だった。
「何か見せて欲しい」
私たちがそう云うと、彼は振り向いて独自の低い調子で呼ぶ。
それはたいして大きい声ではなく、誰かを呼ぼうとして、途中で気が変わって呼ぶのをやめたのかと思われるように、短く中断したような呼び方である。
そうすると、同じように悲しげな呼び声を上げていた二、三人の小僧が番頭のところに寄って来る。
広い暗い建物のあちらこちらで、同じような呼び声が発せられている中、どうやって番頭の声を聞き分けているのだろう? 私には不思議で仕方がない。
その呼び声は決して不調和なものではなく、むしろ全体が調和をなしている。
ただなんとも云いようのない悲しい響きなのだ。
ただ一人だけ威勢のいい声を出す小僧がいて、その人が呼ぶ時には喜びのように聞こえた。
番頭はお喋りで、私が日本語が分かると知ると、ぺらぺら喋りだして、ついていくのが一苦労だった。
彼は文の終わりに必ず「ナ」をつける。
たとえば「そうですナ」といった具合で「ナ」に特に力を入れるのだ。
そしてさっと首を振り上げて、息を止め、深々と頭を下げる奇妙な仕草。
そんな仕草を繰り返しながら店の品物を褒め、大丸の商売を褒め、東京の小さい呉服屋を貶した。
最後に一枚四円の綺麗なスカーフを出してきた。
母は一枚買うことにした。
けれど買う前に、母に通訳を頼まれ、次のようなことを伝えた。
「私たちは外国人なのでよく誤魔化されるけれど、正当な値段は払うつもりです。だからあなたの言葉に嘘はないのでしょうね?」
番頭はまた深々と頭を下げて、云った
「よその小さい店のことは知りませんが、我が大丸では値段ははっきりと書いてあります。絶対に人によって上げたり下げたりするようなことはございません」
この番頭の言葉には自分の勤める店に対する絶大な自信が感じ取れた。
実際番頭は長い間この店で働いているそうだ。
「品物は最高のもので、値段も変わりません。是非二階の陳列品も見ていって下さい。案内いたしますから」
そう誘われたのだけれど、もう遅かったので断った。
番頭は私たちに色々と聞いた。
何処の国から来たのか。東京に住んでいるのかなどなど。
その後、自分の名前は伝吉であること、是非また来て欲しいことなどをぺこぺこ頭を下げながら述べた。
大丸は外国人はあまり行かないけれど、日本人はいい店だと云っている。
日本人向けの店なのだ。
大鳥夫人が昨日亡くなられ、明日埋葬式がある。気の毒なお方。