Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第41回−4

1878年2月16日 土曜日 
お菊ちゃんは昨日既にだいぶホームシックのようだったが、家には帰りたくないと云っていた。
お逸が上手に宥めてくれたのでもう大丈夫。
そう思っていたら、今朝またホームシックが始まってしまった。
それで結局おうちに帰した方がよいということになった。
でもまず西田氏のおうちに連れて行って、女中さんに髪を直して貰った。
「彼女は大鳥圭介氏のお嬢さんなんですよ」
そう云ったら、西田家の人たちは拝まんばかりに恭しく扱った。
私は戸口に腰掛けて、お菊ちゃんのお母様が亡くなった話をした。
西田夫人はすっかり同情された。
西田家の小さい赤ちゃんは相変わらず真っ赤な醜い顔でよく泣く。
ボーヤは赤ちゃんに嫉妬している。
十時に私はお菊ちゃんを連れて車で三光坂の大鳥邸に行った。
途中で色々面白いものを見た――髭を一本一本抜いている男の人、家財道具を積んだ荷車のてっぺんに乗っている檻に入れられた二匹の猫、雪合戦している二人の車夫など。
お菊ちゃんのお姉さんたちはあまり妹を歓迎しなかった。
実はお菊ちゃんは養女にやられていて、田舎で育ったからだということである。
帰途福沢諭吉家に寄って、奥様を火曜日の夕食にお招きした。
「どうぞ上がっていってください」
ご在宅だった福沢氏がしきりに仰っるので、私はその勧めに素直に甘えることにした。
靴がまだ泥んこになってしまっていたので、靴を脱いで上がった。
福沢氏はとてもご親切だ。
お嬢さんのお琴の練習を聞きに連れていって下さり、日本料理の昼食をご馳走になった。
福沢氏のうちは日本建築だが、埃一つ無く綺麗だ。
いつも親切にして下さるので私は先生を尊敬している。
強い男らしい方で、いろんな有益な本を日本語に訳しておられる。
先生の学校、慶應義塾は弁論で有名だ。
また先生は非常にリベラルな考えの持ち主である。
開校した当時は杉田武氏がただ一人の学生だったが、今では大きな学校になっている。
福沢氏は日本のために大いに功績がある方だ。


二時に帰宅。
そのすぐ後にビンガム夫人が母のところへ訪ねて来られて、六時までいらっしゃった。
こまつもアディのところへ遊びに来て、夜の十時までいた。
ビンガム夫人と母が話している間に私はユウメイの家へ行くことにした。
二人で散歩に出かけるのだ。
まず築地の方へ歩いて行った。
ペルー領事館の門が開いていたので中に入ってみた。そこはまるで御伽の国のようだった。
素敵な松の木立や丘。木立の中の道を歩きながら二人で御伽ぎ話を作り上げた。
そして夜。
我が家のハンサムで礼儀正しく魅力的な料理人は消え失せてしまった。
一ヶ月分の給料の十ドルを受け取ると、さっさと荷造りをして出て行ってしまったのだ。
本当のことを云うと。
金曜日にストーブのことで癇癪を起こしたのだ。
それも酷い癇癪。
鍋や薬缶を投げつけ、拳骨で壁に穴を開け、台所用のスプーンを折り、カネや笠原を箒で追い回したという。
なんと恐るべき暴漢!
怒らせたが最後、どんな目に遭うか分かったものではない。
しかし幸い私たちは現場にいなかったので、暴れるのを目撃しなくて済んだ。
カネは彼の顔色にびくびくしていた。
出て行ってしまったのは残念だけれど、家の中に暴漢をおいておくことはない。
料理人がいなくなって、私たちはまたしてもカネを呼び戻すことになった。
カネは大人しい人で、なんでも頼まれたことをきちんとやってくれる。