Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

クララの明治日記 超訳版第42回−2

1878年2月20日 水曜日 
女生徒も規則正しく出席するようになったので、男三人女三人のクラスは上手くいっている。
みんな上達が早くて私たちは誇らしく思う。
けれど。
「本当にこの発音だけは日本人には難しいようね」
母は「l」と「r」の発音の区別を教えているのだけれど、どうしてもこの部分が日本人は苦手らしい。
もしも誰かが朝の十時頃、我が家の前を通りかかったら、プリ、プロ、プルをlで発音したり、rで発音したりしている若い男女のコーラスを聞いて何事かと訝るだろう。
午後ヤマト屋敷に出かけてド・ボワンヴィル夫人に会い、そのすぐ近くに住んでいる大久保氏に手紙を書いた。
それから富田氏のうちに行ったのだけど、出て来た夫人を見て吃驚。
富田夫人はひどい風邪をひかれ、何日も髪を結っておられないので、物凄い様相だったのだ。
晴れた美しい日だったが、風は強かった。


夕方、ユウメイのところに遊びに行き、北京の鐘の話を聞いた。
「ある時、皇帝陛下が特別製の巨大な青銅の鐘をこしらえようとしたの。それが全ての始まりだったわ」
芝居がかった口調でユウメイは語り始める。
「困難か予想されるその事業の吉凶を占うべく、皇帝は高名な預言者を呼び出したの」
預言者とも、魔法使いとも呼ばれるその人物は、成否を問う皇帝の質問に何も答えなかったのだそうだ。
「痺れ切らした皇帝陛下は、預言者の言葉を待ちきれず、皇宮内に設置した金型に溶解した金属を流し込むよう指示したの」
しかし手順は間違っていない筈なのに、故だかうまく鐘の形に鋳上がらない。
更にもう一度繰り返しても駄目で、皇帝は魔法使いが無言を貫き通すのよ、遂に堪忍袋の緒を切ったのだという。
「刃を突きつけられた預言者は、やむなく口を開いたわ」
『鐘を鋳るには美しい乙女の生命が必要なのです』
「流石の皇帝陛下が言葉を失った次の瞬間! 
陛下の傍らに控えていた美しい女性が煮えたぎる銅の中へと駆けだしていったの。
慌てて皇帝陛下がその後を追ったのだけれど、引き止めることは叶わなかった。
でも彼女が飛び込んだ途端、銅の色が変わり、見事に銅が固まりの鐘の形になったわ。
呆然と立ち尽くす陛下の手には彼女の靴だけが。
陛下が一番溺愛していた姫君の靴だけが残ったの」
その鐘は『セイイン』、つまり中国語で『靴』と名付けられ、北京の空にその音を鳴り響かせることになったのだという。
しかし、市勢の人たちはその鐘の音の“シェ(鞋)、シェ(鞋)”という音を、姫君が靴を探しているのだと噂し、彼女の魂を和らげるために広大な「娘娘廟」を建てて、姫を鋳鐘娘娘として祀ることにしたのだそうだ。
もう一つのお話もある清国の女性の物語。
「その夫婦は熱烈な恋愛の末に結婚したのだけれど、人の心は移ろいやすいもの。夫は家を出て他の女と結婚してしまったの」
なんてひどい話なのだろう! 憤慨する私を余所に、ユウメイは淡淡と続ける。
「一人残された彼女を、彼女の結婚前から慕っていた金持ちの男がいたの。
男は夫に逃げられた女のもとへ訪ねてきて、お助けしたいと申し出たわ」
しかし彼女はその求婚を撥ねつけたわ。お金はしまっておきなさいと云って。
けれど、男はまだ彼女のことを諦めなかったわ」
一体この後の展開はどうなるのだろう?
ドキドキしてユウメイの次の言葉を待っていた私に待ち受けていたのは「想像の斜め上」の展開。
「次に男は彼女の眼の美しさを讃えたの。
すると、突然! 
彼女はいきなり自分の片方の眼を抉り取ったの!
思わぬ展開に、呆然と立ち尽くすことしかできない男に向かってこう言い放ったわ。
『貴方が愛しているのは、私の目なのでしょう? ならばこの眼をを持って行きなさい』」
このように女は不義の夫に永久の忠誠を誓ったのだという。
なんという勇ましい女だろう! 
清国にも英雄もいれば、女丈夫もいるのだ。