Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第44回−3

1878年3月25日 月曜日
何故だかアディと私は今日が母の誕生日だと勘違いしてしまっていた。
銀メッキのテーブル用のベルを買ってプレゼントにするつもりが、本当は4月25日だったのだ。
「一年に二度誕生日があるのはずるい!」
どうにもピントがズレたことをアディは云ったけれど、とにかくベルは母にあげて、間違いの誕生祝いと云うことにした。
おやおさんは風邪が悪化して、気分が悪そうだった。
今日は向かい側の電信中央局の開業祝い。
旗や提灯や常緑樹のアーチで綺麗に飾られているので、お逸は四時まで残っていた。
「兄様! ちょっとお待ちになって」
いつものように三時に小鹿さんが我が家の前を通りかかかったのをお逸は呼び止めた。
「開業祝いに私たちを連れて行って欲しいんだけど?」
お逸のお願いにまず小鹿さんは自分一人で偵察に行ってみると告げ、ほんの数分後に戻ってきて報告した。
「行っても、どうせ中には入れないので見に行く価値なし」
それにしても、小鹿さんは以前の威勢の良さは何処やらに行ってしまったようだ。
最近はいつもはにかんだり、もじもじしたりしている。
お逸はそんな「兄様」をからかうのが好きで、わざと彼を居心地悪くするのだ。
向かいの建物の前で消防隊の軽業があった。
橋の上から纏いを担いで駆け下りて来て、六人が一組になって次々に梯子に上り、見事な軽業的作業をして見せてくれた。
でも、一人が落ちて鼻をぶっつけ、卒倒した。
その後、この間上野で心中があった話をお逸に聞いた。
女は若くて綺麗な人だったそうだ。
「兄様、クララにも詳しく分かるように英語で説明してよ」
妹のそんな「おねだり」に小鹿さんは本当に困った様子を見せた。
それはそうだろう。
男女の心中の話の詳細を、妹の前で、妹の親友の年頃の“女の子”の前で、しかも英語で喋らされるなんて、一種の拷問だ。
小鹿さんが適当(としか思えない)理由をつけて帰った後もお逸は残って、恋人たちの話――彼らの運命――を聞かせてくれた。
私はこんなお逸が大好きだ!
……だから、母が最近日本を離れる話をすると悲しくなる。
松平家からの紹介でやってきた新しい女中のチヨは行儀のよい子で、京都弁が面白いが分かりにくい。
お逸でもチヨの云うことはなかなか分からないし、笠原も分からない。
チヨが云うには、東京弁よりずっと楽だという。
東京では私のことを「お嬢様」と云うけれど、京都では「お姫様」という。
水とは絶対に云わない。「お冷や」という。
早く京都弁を習いたいと思う。