Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第55回−3

1878年8月24日 土曜日
昨夜は恐怖の夜だった。
十一時頃に兵士の一団が開成学校の近くの竹橋にある司令部で反乱を起こしたのだ!
私たちはその自国に五発の砲声で目を覚ました。
宮城から聞こえてきたそれは、非常事態の合図なのだ。
五分と立たぬうちに永田町界隈は、宮城あるいは陸軍省へ急ぐ人々で騒がしくなった。
変装した将校が供を連れず、明かりもつけず、単身馬を駆って通っていく。
東京府知事の楠本氏は人力車で来られ、前島密氏は別当も連れず、提灯もつけず馬に乗り裏門からそっと抜け出し、寺島宗則氏は三人の人と一緒に馬を飛ばして行った。
歩兵と騎兵の部隊が隊伍を組んで行進していき、帯刀した警察官の大部隊も通って行った。
軍服を纏った正体の分からぬ騎手がゆっくりと通り過ぎて行き、町全体が息を殺しているように思われた。
「黒っぽい服装の三人が街角で落ち合い、人に聞かれることを恐れているかのように、ひそひそと話し合っているのを見ましたよ」
近所まで様子を見に行った母はそんな目撃談を教えてくれた。
やがて二人の騎手が我が家から見える坂を下りて来たけれど、それを見ると三人は急いで虎ノ門の方へ坂を下りて行った。
慌ただしくお使いが向かいの家の将校を呼びに来て、叫んでいるのが聞こえてくる。
「ダンナ、ダンナ! 早く! 早く来て下さい!」
一人の車夫が、午後六時に皇后様に皇子がお生まれになったと話しているのが聞こえた。
私たちは何事が起こったのか知らないまま再びベットに戻った。
事情が知れたのは翌朝早く富田氏がみえてからのことだ。
「鹿児島県と石川県のサムライが政府に謀反して三条実美公を殺す予定だったらしいですよ」
使用人のカネはそう付け加え、更に追い打ちを掛けるように物騒なことを呟いた。
「自分だって、元は士族。士族をここまで追い込んだ三条公を殺したいほどですよ」
それはこういうわけなのだ。
この前の戦争、つまり西郷の反乱のことだけれど、その開戦当初、ミカドはある部隊には沢山の報酬を与えられたらしい。しかし、後から参加した者は忘れられたか無視された。
この人たちがぶつぶつ言い出して、他の人もそれに合流し、遂に全部隊が謀反を企み、金曜日の晩に反乱に突入したというわけなのだ。
死傷者の数は不明。
富田氏によると、三人の将校と二人の車夫が、鉄砲か刀で殺されたのだそうだ。
未確認の噂によると、二百ないし三百の人が殺されたともいう。
今朝反乱軍の兵士たちは縛られて、政府側の兵隊に連れられて裁判所へ行った。
彼らがどうなるのか私には分からない。
反乱軍は自分たちは天皇に叛いているのではなく、憎い内閣と税吏に対して反乱を起こしたのだと主張している。


津田仙氏が今朝早く、私たちが怖がっていないかと訪ねて下さった。
それから津田氏は吉報ももたらしてくれた。勝氏が私たちに住居を提供されるというのだ。
勝氏が家を買って私たちに無料で貸して下さってもよいし、形ばかりの家賃を貰ってもよいというのだ。
アメリカの私たちの財産には手をつけないように、私たちが帰国する時のようにとっておくようにと忠告された。
ここで津田氏は勝氏をべた褒めに褒めた。
勝氏は紳士であり、哲学者であり、博愛家であり、愛国者である。
更に津田氏によると彼は節約家であって、ご自分の安楽のためには殆どお金を使わず、娯楽には一文も使われない。
しかし、家や趣味は簡素であっても、心は常に何処の国の人であろうと弱い者、困っている者に向かって広く開かれている。
彼は西郷氏が敗れるまでは特に味方しなかったが、破れた後で伝記を書き、手紙は出版し、敗軍の将の銅像を建てるために募金から始められた。
「そのように」と津田氏は云われる。
勝氏は貧しくても弱くても、虐げられている者、圧迫されている者の常に味方であって、自分の安楽を犠牲にしてもその人たちに救いの手を差し伸べられるのです、と。
全国から男百人という人が毎日のように勝家の門前に押しかけ、彼の恵みに乞うのである。
その上先見のある人物であって、金遣いにも、国事にも慎重である。
大勢の金持ちの公達が財産に関して相談に来る。
勝氏はその人たちの財産の処理の仕方について指示を与える。その通りに実行すれば必ず成功するのだ。
将軍家が敗北しないうちに、降伏を進言したのも勝安房であった。
それかがどう人の目に映るか、人々が彼を徳川の敵と云うのを十分承知の上で、十年の間に彼らの権力は復活すると予見し、宣言した。
そして今十年が完了してみると、輿論はまさに徳川家支持に傾き、ミカドの政府は日ごとに煩わしいとの感を深くしている。
以前には勝氏を貶していた人々が今では彼を褒め称え、その歓心を買おうとしている。
異教徒の国にもこのような人を見出すことは喜ばしい。
自然の神の宗教以外に宗教に興味のない人ながら、彼らなりの宗教の心が彼の心に、悩めるやもめと孤児を「救い」、自らは俗世の汚濁に染まらぬように身を処していくように命じているのだ。
このような良き友を与えてくださったことに感謝する。
勝氏の上に神様の御恵が豊かにありますよう、私たちの祈りが聞き入れられますように。
午後には大鳥家を訪ねた。
美しい庭園は念入りに手入れされて草木が栄え、イタリア人彫刻家ラグーザの手になる故大鳥夫人の立派な胸像が飾られていた。
その後村田家と富田夫人を訪問した。忙しかったが、楽しい一日だった。