Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第58回−2

1878年10月1日 火曜日 
今日日記を数えて、私が日記をつけ始めてから七年間に、どれだけ紙を浪費したかを計算しようとした。
しかし書くことこそが私の十字架なのだと思い直した。
もし日記がなかったら耐え難く淋しいであろう。
とりあえず、過去はしまっておいて、現在のことを考えなければならない。
現在は幸せと喜びに溢れているけれど、悲しみや苦しみも多い。
今から書こうと思う昨日の出来事は愉快な楽しいものだった。
でもその前に、私たちの新しい家――私たちの家となる予定の家――のことを書かなければならないだろう。
木挽町の住みよい家を出たのは七月だった。
森氏のご厚意で、新しい家が見つかるまで永田町の彼の持ち家に住んでいる。
その間、友人たちが一生懸命探してくれたがなかなか見つからなかった。
それでご親切に勝安房守様が私たちのためにお屋敷内に家を建てて下さることになったのだ。
小鹿さんと富田氏の監督の下、今日から建て始められることになる。
私たちは本当に感謝にたえない。
何とかして感謝の気持ちを表したいと思う。
おっと、昨日のことはまだ書いてない。
富田夫妻がピクニックを計画して、私たちの他にディクソン氏、シェパード夫妻とお子さんたち、村田氏、お逸を招待された。
私たちは大きい屋形船で、一時に華族銀行の近くの宝来橋のところから出発した。
みんな大喜びで、運河を下って東京湾に出て、そこから静かな隅田川に入っていった。
三時間の楽しい船旅――その間に煎餅や、福徳の包みや、ゆで栗をたくさん食べて――の後に向島の植文茶屋に着いた。
中に入ると女の人たちはすぐにテーブルの用意をしてくれた。
もっともテーブルといっても、ベンチのようなものを三つ並べて上に白いテーブル掛けを掛け、ナイフやフォークやナプキンを揃えたものだ。
みんなどうにかテーブルの周囲に坐った。
ある人は横膝に坐り、ある人は胡座をかいた。
シェパード氏は滑稽な方で、床にべたっと坐って、足をテーブルの下に突っ込んだが、向こう側まで届くほどだった。
私はいつものように坐ったが、村田氏が他の人たちにこんなことを話しおられるのが聞こえてきた。
「クララさんは本当にとても上手に坐られますな、まるで日本人のようだ」
私はディクソン氏とシェパード夫人の間に挟まれていたけれど、夫人はしょっちゅう私をつっついて、次々に回ってくるご馳走を「これは何ですか?」と聞いてきた。
一つは大根だったのだけど、彼女は私が「ドライコーン」<乾したトウモロコシ>と云ったと思ったらしい。
みんな賑やかに喋ったり、笑ったりして楽しい食事だった。
食後に花屋敷の中を散歩して、土地の人が珍重する「秋の七草」などを鑑賞した。
夜に入ってからの帰り道は一団と快適であった。
あたりをぼんやり照らす朧気な提灯の光の中でいろいろの歌――荘重なものから滑稽なものまで――を歌った。
滑稽なものでは「三匹の黒い鵜」「メアリ・アン」「可哀想な駒鳥」「乙女」「ちいさい子ネズミ」などが一番おかしかった。
子供たちも上手に歌って興をそえた。
とにかくとても愉快であった。
ディクソン氏が家まで送って下さり、大学の帽子とガウンを見せて下さると約束した。
家に着いたのは夜の八時半だった。