Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第59回−1

1878年10月8日 火曜日 
新しく来られたユーイング先生が今晩家にみえることになった。
というわけで、私は今朝インブリー氏のお宅に預かっていただいているテーブルを取りに、築地に出かけた。
荷車と人夫を雇って、インブリー夫人とも打合せをしてから、ビンガム夫人を訪ねた。
夫人はとても親切に迎えて下さった。
けれど、なんとも運の悪い時に行き会わせてしまった。
というのはベルジック号で到着したアメリカからの郵便が配達されてきた。
そしてその中に二週間前に亡くなったと電報で伝えられていた、その当人からの手紙が入っていたのだ。
手紙の主――つまり、ビンガム夫人の娘さんが快方に向かっているおつもりの時に書かれたもので、大変明るい手紙だった。
気の毒なビンガム夫人のお嘆きは余りにも痛ましく、私はお慰めする力もなく、その悲しみを目撃すべきではないと思ってお暇した。
帰り道で必要な品々を買った。
そうそう、昨日着いた可愛い子猫のことを書くのを忘れていた。
首の回りに札を付けてきたが、それには「ホイットニー様へ ウィリアム・グレー・ディクソン謹呈」と書いてあった。
小さい虎猫である。
私と一緒に夕べは寝たのだけれど、間違って押し潰してしまわないかと心配で仕方がなかった。

1878年10月8日 火曜日 
新しく来られたユーイング先生が今晩家にみえることになった。
というわけで、私は今朝インブリー氏のお宅に預かっていただいているテーブルを取りに、築地に出かけた。
荷車と人夫を雇って、インブリー夫人とも打合せをしてから、ビンガム夫人を訪ねた。
夫人はとても親切に迎えて下さった。
けれど、なんとも運の悪い時に行き会わせてしまった。
というのはベルジック号で到着したアメリカからの郵便が配達されてきた。
そしてその中に二週間前に亡くなったと電報で伝えられていた、その当人からの手紙が入っていたのだ。
手紙の主――つまり、ビンガム夫人の娘さんが快方に向かっているおつもりの時に書かれたもので、大変明るい手紙だった。
気の毒なビンガム夫人のお嘆きは余りにも痛ましく、私はお慰めする力もなく、その悲しみを目撃すべきではないと思ってお暇した。
帰り道で必要な品々を買った。
そうそう、昨日着いた可愛い子猫のことを書くのを忘れていた。
首の回りに札を付けてきたが、それには「ホイットニー様へ ウィリアム・グレー・ディクソン謹呈」と書いてあった。
小さい虎猫である。
私と一緒に夕べは寝たのだけれど、間違って押し潰してしまわないかと心配で仕方がなかった。


午後三時半にディクソン氏がアジア協会に私たちを連れて行くために迎えに来た。
会の開かれた書籍館湯島聖堂という古い立派な建物で、昔若い武士の貴公子方が清国の古典を勉強したところである。
数名の人が既に来ていた。
私たちはみんなと握手をして、フェノロサ夫人とダイヴァーズ夫人の横に腰掛けた。
半時間の間に大勢の人が集まって来た。
パークス夫人以下イギリスの婦人方は部屋の片側に並び、アメリカ人の女性と日本人の婦人方は反対側に並んだ。
まるで向かい合った敵の陣地のよう。
外国人と日本人の男性は部屋の二方の席を占め、工部大学校の学生達は後ろに立っていた。
更にそれぞれグループ別になっていた。
例えば宣教師は一緒に入って来て一箇所に並んで坐り、教師は教師で、工部大学校の一団と、モース先生や矢田部先生に引率された開成学校の一団とがそれぞれ別々に陣取った。
これは意図的なものか、偶然そうなったのか私には分からない。
まず、最初にミルン氏がシベリア旅行の非常に面白い話をした。
寒さ、飢餓、雪による艱難に堪えての旅。
ロシアで買った一着のスーツの話もしたが、まず毛を内側にした羊の皮のスーツを着用し、その上に大きな狼の毛皮を体に巻き付け、更に御者がその上に毛皮の衣で覆ってくれるのだそうだ。
頭巾は長いものなのだけれど、あまりに寒いので、口や鼻から吐き出す息が凍って氷のガラスのようになる。
「凍った獣脂を食べたが、くるみのような味がした」
そんな話もあった。
次にディクソン氏の同国人であり友人のユーイング氏が、奇妙な蓄音機をおみせになった。
管の中に大声で話すと、二、三分後に同じ抑揚で同じ文章をその機械が繰り返すのだ。
ただ声が「甲高いアメリカ人の鼻声」になっていると先生は説明された。
でもミルン氏のその声にはスコットランド人の強いアクセントが残っていると思うと云った。
いずれにしても面白い機械で、機械にしてはよく喋る。
一人のプリマドンナがそれに歌を吹き込み、日本人が日本語で叫んだ。
ディクソン氏は高い声でそれが「ヨロシイキカイデアル」と吹き込んだ。
「何と云ったか分かりましたか?」
私に向かって後でそんなことを聞いてきた。
ディクソン氏は協会の書記なので、いろいろの方が話しかけるのを聞き終わってから、私たちは帰途についた。
母が彼の腕によりかかり、私は母の横について歩いた。
途中で付き添いのいないジェニーとガシーを追い越したが、彼女たちは心許ない様子であったし、ディクソン氏が真っ白の手袋を嵌めた手で私を人力車に助け乗せてくれるのを見て、幾分妬ましくも思ったようだった。
ガシーが私の後ろに来て、私の腕に手をかけ「木曜日にね」と囁いた。
「帰途の旅は楽しかりき 月と星の輝く光は 幸福と安堵の光」
夕食もまた楽しかったし、その後の時間も楽しかった。
ディクソン氏が詩を読み、母は編み物をし、私は猫を撫でながら聞いた。
ユーイング氏は、明日からお勤めが始まるので、準備をしなければならないため家には来なかった。