Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第68回−3

1879年1月10日 金曜日 
今日はウィリイの出発の日。
彼に行かれるのはとても悲しい。
シェークスピアは「別れの甘き悲しみ」と云っているが、それは間違いだ。
もっともジュリエットとロメオの場合はそうだったかもしれない。
しかし、たった一人の兄を未知の危険の中に送り出す時の別れは、甘いどころではない。
金沢にはアメリカ人の舌に合う食べ物はろくにない様子なので、午前中私たちはお菓子やいろいろのものを荷作りした。
アディは、上田おかぜちゃんに上げる人形を兄に言付けた。
おかぜちゃんが兄に託した手紙と、自分で作った人形の衣装をくれたのだ。
兄は昼食まで家にいて、それから母と一緒に駅へ行った。
私たちは、お昼の食事が咽喉を通らなかったので、勝夫人がとても心配なさった。
母は家を出る時は泣いていたし、ウィリイがさよならを云って私たちにキスをし「咽喉の骨が変な感じがする」と云うと、アディが大声で泣き出したので、勝夫人はますます心配なさった。
私がカラカミを睨んで平静を装おうとしたが、涙で目が霞むのをどうしようもなかった。
「大丈夫、すぐ帰っていらっしゃいますよ。小鹿が海軍省でウィリイさんの仕事を頼んでありますから、そうなればずっとお家にいられるでしょう。
さあ、泣かないでご飯を召し上がれ。ご飯が済んだら家へ遊びにいらっしゃい」
ご親切な奥様はこう云って私たちを慰めて下さった。
その後、私たちは勝家に行った。
居間の火鉢の側に坐り、弾力のある固いお餅をせっせと食べて、お腹が一杯になってしまった。
奥様は内田家に寄って来られたので、私たちの方が先にお家に着いてしまった。
「お先にごめんください」
それで彼女が入って来られた時に私がそう云うと、奥様は「後の鷹先に来たり」という諺を引用された。
勝夫人は本当に模範的な女性だ。
洗練された女性で、しかも行き届いた主婦である。
それはご主人にとってはありがたいことだ。
ソロモン王が「価においてルビーに遙かに勝る」と云ったのは、このような女性のことに違いない。
ウィリイは金沢にもう一年勤めるように依頼されているのだけれど、一年間も別れて暮らすことはできない。
彼は我が家にとって大事な人であるばかりでなく、絶対に必要な人なのだ。
どうか神様、兄の旅路をお守り下さいますように。
そしてつつがなく私たちのもとへお返し下さいますように。