Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第68回−4

1879年1月11日 土曜日
昨日も今日も私はお逸のところへ遊びに行った。
お逸を訪問する時には戸口に行って、恭しく告げるのだ。
「ゴメンクダサイマシ」あるいは「オ頼ミ申シマス」と。
そうして、誰かが中から「お入り下さい」と云うのを待つという寸法だ。
昨日行った時は高木氏が居間におられたので、お逸に着いて、コタツの切ってある部屋の一つに通された。
家の中を縦断している廊下を笑ったり喋ったりしながら通っていると、私たちは急に立ち竦むことになった。
「!!」
角を曲がったところで紺の着物をお召しになり、手には金粉をつけた漆塗りの文箱を持った勝氏ご自身にばったり出会ったのである。
私はこんなところで勝氏に会ってきまりが悪く、はっとして、深く頭を下げた。
「失礼いたしました」
小声でそう云って私が道を開けると、勝氏はちょっと足を止められた。
そうして、にっこりと優しく微笑まれると、こう云われた。
「すっかり日本人におなりですな」
部屋に着いた時にはこの冒険に私は息を切らしていた。
「父様がこんな時刻にあんなところを通りかかるなんて!」
お逸でさえ、この遭遇には吃驚していた。
勝夫人をお訪ねしていると時間が早く経つ。
タツというのはなかなか良いものだと思う。
床に四角い穴が切ってあって、そこに火鉢をはめ込んである。
この上に椅子の高さの木の枠が付いており、その上に厚い布団が掛けてある。
家族がこの周りに坐って暖まるわけだ。
このコタツに入ると驚くほど早く身体が暖まる。
スペイン人もこれに似たものを使っていると思うが、彼らのはテーブルに穴を開けたもので、人々はその周囲の椅子に掛けるタイプだ。
みんなが綿入れの布団の上に頭だけ見せて坐っている有様は、実に滑稽だ。
この暖かいコタツの周りに坐って、勝夫人、疋田氏、お逸、そして私の四人で、家の問題について話し合ったので、使用人たちのことがいろいろ分かった。
夫人は私たちのうちのことは何でも知っていらっしゃる。
というのは、話しているうちに急にこんなことを仰ったのだ。
「お宅はもう卵がございませんよ。田中にお金をお渡しになれば買ってきます」
卵の管理は私の責任なのだけれど、自分では知らなかった。
夫人は使用人が何処へ何をしに行くか全部知っておいでになる。