Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第71回−3

1879年2月26日 水曜日
昨日母は気分が悪くて一日中寝ていた。
晩に勝夫人が見舞いに来てくださった。
長い間あれこれとお話をなさったり、新聞に出ている面白い話をきかせて下さった。
本所のある大名の奥様が車夫と駆落ちをした話。
大名の妾が殿様と二人の家来ともう一人の人物との殺害事件に荷担していた話。
そんな話とかである。
「女は不必要に心配がちですから」
そう云われて、母にウィリイのことは心配しないようにと仰った。
「私も若い頃は心配性でしたけれどね、年をとって世間の見聞も積んだので、何事も最後はうまくいくと思うようになり、あまり心配しなくなりました」
それはキリスト者のような考え方だ。
今日午前中に銀座へ行った。
とても良いお天気だったので、母も外出した方が気分がよくなるかと思ったので、一緒に出かけた。
久保町のお茶屋に行って、魚と栗を注文した。
待っている間に一人の年輩の女性が赤ちゃんを抱いて出て来て、私たちに赤ちゃんを見せるために近づいて来た。
年齢を尋ねたら八月生まれという返事だった。
名前は杉一郎といって、宮内大輔の杉孫七郎氏の坊ちゃんだということだった。
可愛い赤ちゃんだったけれど、随分みすぼらしい格好だった。
どうして杉氏は息子さんにもっと良い着物を着せないのだろう?
私は不思議に思った。
あまりにも気持ちの良い陽気だったので、家に入るのが勿体ないようだった。
お逸は午後から夕食までいたが、食事の最中に使用人が来て、おやおさんがみえたと云ったので、お逸はお客様の接待をしに帰って行った。
そこへ村田夫人がシャツの作り方を習いに来た。
やがておやおさん、おすみ、お逸が小泉氏を従えて勝氏のところから帰って来て、みんなで家の食堂に入り、テーブルの周りに坐った。
「まあ、素敵な色」
おやおさんは派手な毛糸に心を惹かれて私の編み物を取り上げ、私はかぎ針編みを始め、おひささんはシャツを縫い始めた。
お逸とおすみは怠け者の役で、いろいろ滑稽なことを云っていた。
「どう? 私、“紙持ち”でしょ?」
懐に紙をいっぱい入れそう云うおひささんに私は問い返す。
「私にはいま“金持ち”って聞こえたたけれど、どちらだったの?」
「どっちでも同じよ。最近のお金はみな紙ですもの」
お逸の絶妙なツッコミ。
そんな調子で、おかしなことばかり言って騒いでいた。
しまいには謹言そのものの小泉氏まで思わず笑い出してしまう始末。
そのうちにお逸やおすみも怠けているのに飽きて『天路歴程』や文芸書や、哲学書を取り出して読むことになった。
「やっぱり裁縫よりも読書の方が高級な仕事よねー」
さっきまでの自分の行動を棚に上げ、お逸はしれっとそんなことを云う。
そのあと、私たちの大好きなゲーム「私の友達をどう思う?」をして遊んだ。
対象になった人物が村田氏、梅太郎、恒五郎、キティ、ウィリイ、小泉、新左衛門などであったからまた大笑い。
私たちは裁縫の会を組織し、毎週水曜日の二時に集まることにした。