Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第73回−3

1879年4月2日 水曜日
今日はお昼にお客がみえるので、午前中には家を綺麗にした。
昨日素晴らしい買物の絨毯を敷き、カーテンを吊ったので、部屋はとても綺麗になった。
お逸が庭から切ってくれた白とピンクの桃の花を活けた。田中も日本風に一枚活けた。
シュウがシャンデリアをピンクの桃の花や、椿、白梅、杉などで飾り、まるでウェディングベルのように見えた。
一時に、サイル夫人、ミス・ワシントン、マッカーティ夫人、ミス・ジョンソンがいらっしゃった。
ミス・ワシントンを除いて、皆、私たちがお宅でもてなしを受けたことのある老婦人だ。
シュウは万事うまく計らってくれ、本当に楽しい午餐会だった。
「シュウは結婚の準備をしていたんでしょう」
花の飾り付けを見たミス・ジョンソンは仰った。
母はこんなにたくさんの良い方に来て頂いて、喜んでいた。
母はもっと大勢の方とおつきあいした方がいいのだ。
お逸も来て、新しい方々とお近づきになった。
三浦夫人も後でみえたが、とても綺麗だった。
母が客間で他の方々のお相手をしている間、ミス・ワシントンと私は庭に出た。
ミス・ワシントンは美しい忘れな草、すみれ、桃の花がすっかり気に入ったらしい。
「今晩、髪にさして寝ようかしら?」
それからお逸、おひさ、アディと一緒に縁側で“虫拳”をして遊んだ。
親指、人差指、小指はそれぞれ蛙、蛇、ナメクジで、蛙は蛇、蛇はナメクジ、ナメクジは蛙に負ける。
向き合って手を袖の中に入れ、一・二・三のかわりに「シ」と云って、同時に指をどれか出すのである。
何人かが一緒にやると面白い遊びで、負けると何か身につけているものを渡さなくてはいけない。
だから女の人はかんざし、櫛、帯留め、ハンカチ、指輪、財布、鼻紙を出してしまうと、後は着物しかない。
「男の人や子供たちでやる時は着物まで全部脱いで、素裸になるまでやるのよ」
何故か嬉しそうに云ったお逸は、更に続けて云った。
「今度する時は、おひさを裸にしましょうよ!」
「絶対イヤよ!」
標的と目されたおひさは当然怒った。
静かな遊びなので<!>、勝家が一時移住していた静岡では目隠し鬼やその他の荒っぽい遊びの代わりにしたそうだ。
やがてお客様も帰られ、おひさもお逸も夕食に戻った。


皆様がとても喜んでおられた。
サイル一家が五月に帰国し、マッカーティ一家も、ユウメイのために清国人の移民禁止法が議会を通過しないうちに、秋前に急いで帰る予定だ。
「皮肉なことだけど、清国人は安く働き過ぎるからいけないのよ。
わたくしは必要最小限しか働かないから心配いらないのに」
メイは愚痴っぽく云っている。
「新左衛門の勘定のことですが、私は仲裁に入りようがありません」
田中がそう云うので、代わりに私が日本語で説諭してみることにした。
新左衛門は月極ではなく、一時間六セントで雇ったので、付けが九、十ドルにものぼってしまったのだ。
勿論、これまでのことは仕方がない。
が、二度とこんな事が起こらないようにしなければならない。
田中が役に立たないので、母は、勝夫人に聞いてみたらという。
夫人は来客中で、お逸に海軍の軍服とか金の肩章や帽子のリボンのかかった小鹿さんの部屋に連れていかれた。
ちなみにその若き海軍士官の部屋は……お逸の羽織、着物、帯、簪が、我が物顔に占領していた。
間もなく夫人が入ってこられたので、また「苦労話」を繰り返すと、眉を寄せてじっと聞いておられたが、じきにあの感じのよい話し方で仰った。
「こればかりは、そもそも間違いだったのだから、今となっては致し方がないですね」
疋田氏がウィリイに月極の方が安いと勧めたらしい。
しかし、兄が聞き入れないので内申反対だったが引き下がったのだった。
今回は支払うほかないが、またこんなことになってはいけない。
車夫はよく騙すので、木下川に行くのに三ドル近く払ったことが夫人でさえあったそうだ。
「とりあえず、新左衛門には私が話しましょう」
そのあと、お逸が活け花で賞を貰ったメダルを見せてくれたことからお花の話になった。
「クララさん、活け花か琴を習って、帰国のお土産にしたらどうですか?」
夫人は私にそう云われた。
「役に立たないお稽古事はすすめませんが、こういうものは、年を取ってから静かに落ち着いて楽しめるものですから、無用のものとは云えますまい。
お国で特別に綺麗な花を見たりした時、
『ああ、東京の勝さんのところでお花の活け方を教わったっけ。この枝をあの頃の思い出に活けましょう』
そう思えますものね。だから役に立たないことはありますまい」
「私は年を取りすぎて、覚えが悪うございますが(これはお作法の先生の文章を一生懸命勉強して覚えた言葉だ)、仰るとおりなので、覚えてみたいと思います」
お向かいの藤島氏は“あの外国人たち”に来客の多いのに吃驚しているそうだ。
「でもあんなに沢山外国人や日本人が来るのは、きっといい人たちだからだろう」
勝夫人にそう云ったそうだ。
ちなみに勝家もひっきりなしに来客だという。
そこへ梅太郎が来て風呂の支度ができたと云ったが、丁度お逸が特別おいしいお菓子を持ってきたところだったので、少し食べていたら、シュウが呼びに来た。
「お手間をかけて申し訳ありませんでした」
「ご遠慮なく面倒なことがあったら来て下さいな、できるだけお手伝いいたしますから」
勝夫人はそう仰った。