Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第74回−3

1879年4月7日 月曜日
向島の花見に招待します」
ヘップバン夫人には、ずっと前からそうお約束していた。
ということで「今がちょうど見頃だから早く見に行った方が良い」という小鹿さんの助言に従い、土曜の午後、間に合わないのではないかと思いながらも、急いで横浜に手紙を出した。
何の返事もないので「着かなかったのでは?」と心配しながら支度をしていると、十時にシモンズ夫人と一緒に来られたので、私は本当にほっとした。
ヘップバン夫人の話では、手紙は昨日夕方五時に届いたので、すぐ電報を打ったそうだ。
けれど、それが着いたのは二人が到着してから丸一時間も経ってからで、本当に馬鹿馬鹿しかった。
十一時に出発し、途中、蓮華坂で約束通りド・ボワンヴィル夫人と落ちあった。
ヘップバン夫人と私が先頭で、シモンズ夫人、梅太郎と内田夫人、ド・ボワンヴィル夫人、母とアディという順序で、最後はお弁当を持ったシュウだった。
山の手の屋敷町から下町を通って永代橋に出、向島に出かける人力車や人の群れに混じった。
とても気持ち良かった。
晴れ着を着た行きの人々は静かだが、帰りの人たちは赤い顔をして声高に喋り、奇妙なお面を付けたり桜の枝を手にしたり、頭に花を飾ったり、お祭りの時に売るいろいろな玩具を持ったりして、ドンチャン騒ぎをしてきたことが分かる。
ヘップバン夫人は東京に慣れていらっしゃらないので、立派な建物やお店を珍しがって、あれこれと名前を聞かれた。
向島に着いた途端、雨がひどく降りだし、たちまち傘が一面に広がった。
陽に誘われて何の備えもせずに集まった考えなしの蝶たちは、美しい着物の裾をからげ、赤い蹴出しと素足を見せて、木の下に建てられた無数の茶店へ逃げこんだ。
だが私たちが勝家の夏の別荘に着いた頃には、まるで顔を洗った悪戯っ子が美しい花を見てまた微笑むように、青い空は美しく晴れ、日が照っていた。
別荘は相変わらず素敵で、もみじ、忘れな草、すみれがこれほど美しいところは他にない。
ヘップバン夫人もシモンズ夫人も、とても喜ばれ、遠乗りでお腹が空いていたので、シュウの持ってきたサンドイッチやケーキを頬張った。
それから桜餅、寿司、羊羹、あやしげな緑色の液体も「今日は特別だから」と口に入れられたが、そのあと慌てて素性の知れたものを飲んでいらっしゃったのは、きっと口直しだったのだろう。
楽しく二時間くらい過ごしてから、上野を通って帰ることにした。
まだ早かったのだが、ヘップバン夫人は、先生に六時半に横浜に迎えに来て貰うことになっていたので、上野は見ている時間がなく、通り過ぎただけだった。
巨大な帽子を被り、口に黒い猿ぐつわのようなものをした、とても変な日本人のおばあさんを見かけた。
ディクソン氏、ライス夫人、アレグザクンダー夫妻、フェノロサ夫人などにもお会いした。
和服を着た松平氏にも会ったが、何だか赤い顔をしていた。
横浜のお二人を駅まで送ってから帰宅した。
内田夫人は駅に入ったことがなかったので、珍しがっておられた。