Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

クララの明治日記 超訳版第80回−6

1879年5月29日 木曜  
今朝、梅太郎が私に自分の身の上について打ち明けてくれた。
こんな若い少年がこんなことを知っているかと思うと、私はショックを受けた。
「叔母に会いに六月に長崎に行くつもりですが、このことは他の方には内緒にして下さい」
追々分かったことは、梅太郎の実母である梶くまという方は、1866年1月に二十五歳で亡くなられたのだそうだ。
肥前出身の、よくできた美しい婦人だったらしい。
梅太郎はそんな母親と三歳の時に死別し、その後東京に送られて育てられた。
梅太郎の云う“叔母様”というのは、亡母の妹で、母の死後撮った写真を持っているという。
「母の実家を見てきたいのです」
梅太郎はそう力を籠めて云う。幼い頃に故郷を離れていれば、その思いはひとしおだろう。
それから、梅太郎の下の弟である七郎の話になった。
七郎は使用人の小西かねの子なのだという。
梅太郎は七郎を「ひどく怒りっぽい」と馬鹿にしている。
こういうことは考えただけでショックだ!
天皇陛下まで奨励しておられるが、こんなやり方は帝国の土台を崩すものなのに! 
梅太郎はひどく赤裸々に話しはしたが、父、つまり勝安房守の行動を少し恥じているのを見て、私は嬉しかった。
日本にいる外国人で、私たちのように日本人の家の内情まで知るようになった者は他にいないと思う。
決して自分たちから無理に聞き出したのではないのに、何事についても信頼されている。
これは別に私たちが他の人たちより優れているからというわけではない。
神が私たちにそのような立場をお与えになったためなのだ。
この有利さを悪用することがありませんように。


ずっと前から行くと約束してあったので、午後ユウメイと大鳥嬢に会いに行った。
途中、村田夫人に出会い、一緒に行った。
大鳥閣下はまだ帰っていらっしゃらなかったが、子供たちは皆家にいた。
三女のおゆきさんは大変危険な肝臓の病気でとても悪そうだ。
青白く痩せてもう長いとは思えない。
メイはおゆきさんの相手を、村田夫人は閣下の三男でいま4歳の六三君の世話、私は閣下の長男である富士太郎、次女のおきくと遊んだ。
「皆さんのご機嫌は如何ですか?」
おきくにそう聞くと「ハイ ミンナ ゴジョーブ デス。尤モ ジョーブ」との返事が。
津田氏のうちの近くで村田夫人と別れ、上機嫌でうちに帰った。
だがこの日はこれで終わらなかった。
うちの小路に差しかかると、ターリング氏が、どこが私のうちかと探していた。
私を見ると、人力車の支払いを済ませ、私に着いてきた。
時間は五時過ぎぐらいで、母は出かけていた。
幸い母がじきに帰ってきてくれたので、長い間一人で相手をせずにすんでほっとした。
丁度お茶の時間だったが、ターリング氏は一向に帰る気配を見せない。
「丁度お茶の時間ですから、御一緒に如何です?」
母がそう水を向けると、それが目当てだったらしく間髪入れず「はい」の返事が。
ターリング氏は日本女性が大好きで、お茶の間ずっと、私たちにあれこれと情報を聞き出した。
本当にいやな人。
お茶の後、YMCAに一緒に行ったが、どうして別れ別れになったのか、別の道を行ったのか、私たちの方が先に着いた。
今日の催しはとてもよかった。
特にディクソン氏が活躍した音楽がよかった。
みんな上機嫌で、一つ終わるたびに大きな拍手が沸いた。
ミス・ホルブルックがウィル・カールトンの「丘を越え貧しき家に」をとても上手に朗読し、大きな拍手を受けた。
確かに素晴らしかったが、ただ私だったらこんな大勢の人の前で、恥をさらすような真似はしない。
津田氏がYMCAに贈呈した苺は素晴らしくおいしく、添えられたクリーム、粉砂糖、ケーキ、レモネードも、その味を台無しにするどころか、かえっておいしくしていた。
このあと、ディクソン氏がスピーチをした。
「違った国籍の人々がこのように集まるのを見るのは如何に素晴らしいことでしょうか!
津田氏が苺を提供して下さったことは、全ての人々が兄弟となる日のことを思わます」
云々のようなことを述べた。
そして拍手に中断されながら、美しい声で盛り上げてくれたばかりでなく、会に華を添えてくれた女性の賛美をしはじめた。
最後には「女性はただそこにいるだけで妙なる音楽なのです」とすら云った。
男の人たちにもお礼を云い、終わりに津田氏の「貴重なおいしい贈り物」に対し、感謝の決議をした。
私たちはそれからじきに外に出たが、人力車の後ろから足音がして、今夜の立役者が「送らせて下さい」と熱心に云った。
彼は本当に兄妹のようになっている。
五月の澄んだ月明かりの中を、気持ちよく帰宅した。