Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第81回−5

1879年6月11日 水曜  
今日は一時に三田の製紙工場に外国人、日本人の一隊が集まった。
しばらく前に、村田氏が今日私たちを目黒へピクニックへの招待して下さっていたのだ。
村田氏が何度も言い訳をしてから、洒落れた一人乗りの人力車で先頭を切った。
その後ろを母とアディ、村田氏の父上の林氏、次にお逸の専用車、高木三郎夫妻の二人乗車、富田夫人、三浦夫人と私。
ディクソン氏ははじめ私たちの前だったが「どうしても先に行って下さい」とのことで後ろについた。
津田氏と合流するために、古川でとまった。
けれど、例の通りまだ津田氏の支度が済んでいなかったので、長いこと待たされた挙げ句「広尾で待ってますから」と約束して先に行った。
あの美しい菖蒲園――笑花園というらしい――でブラブラしていると、遅刻常習犯の津田氏が汗をかき、赤い顔をしてやって来た。
洋服を着込んできたのだけれど、スネはズボンの裾から丸見え。
チョッキの下の麻のシャツのお腹の部分が飛び出し、カラーがちゃんと留めてなかったので横にずれて、蝶ネクタイが左の耳の下に来てしまい、まるでいたずら子猫のような有様。
汗をかき、はあはあ云いながら、けれど津田氏は展示してある植物を説明して下さった。
広尾からの道は森のように木の多い所を通っている。
道幅が狭いのと、時々急勾配のところがあるので、車を降りてかなり歩かなくてはならなかった。
お陰でじきに皆が皆、津田氏のように暑そうな様子になった。
津田氏の方はと云えば、きつい靴にもかかわらず、坂を上がったり下がったり、辛抱強く歩き、哀れな虫や蛇を殺したり、木の葉や枝を折っては、長々とその性質や効能などを話して下さった。
大体英語で話をしたが、夢中になって急いで説明しようとするあまり、動詞や名詞もごちゃまぜの目茶苦茶になり、英語をもっともよく知っている村田氏が助け船を出していた。
こんなエピソードや富士の素晴らしい眺めはあったが、目的地である目黒の内田屋に着いてホッとした。
おいしいサンドイッチや生姜入りクッキーだけでなく、和食のご馳走もあり、少なくとも私は十分に堪能した。
村田氏は水を給仕した綺麗なウエイトレスが気に入ったようなので、皆でからかったりして、食事はとても楽しかった。
食後にゲームをした。
その一つは足を後ろに持ち上げ、膝で歩いて、柱についている紙切れを舌でとるもの。
無論、男の人たちだけがこの優雅で、面白いゲームに参加し、とてもおかしな格好になった。
津田氏はことに、たとえようもないほど滑稽だった。
ディクソン氏などは俯せに倒れてしまった。
女の人たちはもっと静かな遊びをし、紙で蝶々を作って、髪の毛で扇子の先につけたりした。
しばらくこうして遊んでから、家路についた。
扇子と提灯を持ち、疲れてはいたが、楽しい冗談を云ったり笑ったりした。
家に着いたのは十時近くだった。