Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第86回−3

1879年7月19日 土曜
英国公使のハリー・パークス卿から図書委員に伝言があり、今朝は卿の書斎が必要なので、ウッドに本の世話をして貰いたいとのことだった。
ド・ボワンヴィル夫人はほっとしておられた。
今日は暑くて何をする気にもなれない。
午後、ひどい風ぼこりの中を私たちは上野まで出かけた。
はじめは精養軒へ行き、日本人がパーティをしていたが、池に面したベランダに涼しい良い席を見つけた。
アイスクリームとケーキで世の中が明るくなった気分になった。
ゆっくりここで休み、ボーイの「またどうぞおいでになって、ポーチでお休み下さい」という声に送られて出た。
それから上野を歩き回り、将軍の墓や、勇敢な先祖が戦って血を流した日本版バンカー・ヒルのような永遠の安らぎの地を通った。
偉大な死者の墓はひっそりとして、金緑の屋根が日にキラキラ光り、どっしりとした門の上の徳川家の紋も太陽の光を反射していた。
だがこの自然と芸術の美しさの中で、かつては毎日磨かれ、明かりのいっぱい灯っていた門も石灯籠も今は暗く苔むして、墓と同じく静まりかえっていた。
その静けさを破るものは、この荘厳な悲しみの地にふさわしく声を低めたように思える蝉の鳴声だけ。
私たちは荘厳な森の中を歩いた。
この木は物思いにふけってあたりの小径を歩きまわる紀州公方を見下ろしていたことだろう。
そして戦い! 
御殿の破壊、対立する両軍の雄叫び、殺戮、負傷者の断末魔の悲鳴、そしてついに夜の死の静けさ。
蒼い月がこれらの大木の茂みの間をのぞいて、半ば恐怖の中に流血の惨劇を見下ろした時、薄もやのベールをおののく顔の上にひいて思ったことだろう。
「神は人を完全にした。だが人は満ち足りず、更に発明を重ねた」
黄昏時、家の方に帰ってくると、西の空に大変美しい現象が見えた。
大勢の人がそこここに集まって「キレイ」とか「珍シイ」と云いながらこの奇観に見とれていた。
それで私たちも立ちどまって見た。
空はいつものように美しい青で、綿雲が薄くたなびいていた。
だが西の方では巨大な黒雲が、まるで復讐の手のように夕陽を覆い隠していた。
その黒雲の縁は純金の輪になり、その後ろからは真っ青な光が長い指のように空の果てから果てまで伸びていた。
そしてこの恐ろしい雲の中央からは稲妻がピカピカッと出て、積み重なった雲を、全部照らすのだった。
シナイ山十戒が下った時もこうであったのではと思われるほどの壮大な光景。
私たちは先に進んだが、西の方に曲がったので、前方の黒雲が刻々と変わるのを興味深く眺めることができた。
やがて「黄金の裏打ちをした雲」は色が薄くなりだし、溶けた金が横からさっと流れだし、空を染めた。
それは次第に血のように赤い真紅に変わり、暗雲に映えて実に美しかった。
その変わりようは素晴らしかったが、家の角を曲がり最後の一目をと振り返ると、もうすっかり色褪せて、光線も消え、雲の王子様は古代のノルマンの砦の堀や落とし門のように堅固な色に閉じ籠もっていた。
屋敷の門が私たちを入れるために開くのを見ながら「嵐の王様は戦の用意をしているわ」と私たちは云った。