Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第86回解説

【クララの明治日記 超訳版解説第86回】
「さて、今回も非常に興味深くて、貴重な記録が出て来ましたわね」
「グラント将軍の来日時の様子を知る記録であると同時に、明治初期の劇場の様子が分かる貴重な記録だものね。
では、早速今週分の解説を。
この晩、クララたちが出かけた先の“守田座”というのは、江戸町奉行所によって歌舞伎興行を許されたいわゆる“江戸三座”の一つで、要するに日本の歌舞伎界の総元締めの一つね。
この当時の所在地は新富町、しかも劇場はこの前年である明治11年6月に開演したばかりの、西洋式大劇場。
それまで蝋燭などの“面灯り”でしか照明がとれなかったのを、ガス灯による照明器具を備えたお陰で夜間上演まで可能にした日本最初の大劇場だったらしいわ。
後にこの新富座では、九代目團十郎・五代目菊五郎・初代左團次の三名優が芸を競いあって“團菊左時代”と呼ばれる歌舞伎黄金時代が花開くのだけど、それはまだ後のお話。
クララたちが観劇した際の守田座の座長である十二代目守田勘彌は傑出した才人だったと云われるけど、この日のグラント将軍の歓迎会での演出を読むと納得だよね」
「やたらクララの愛国心を煽る演出でしたわね」
「愛国的アメリカ人としては当然なんだろうけど、星条旗に対する思い入れが半端じゃないよね、クララ。
そしてそれに応える――といっても当然クララのためだけじゃないわけだけど―――守田座側の対応も見事。
“紅白の縞の衣装の十三人の囃子方”“星条旗の星が美しく光るカミシモ”という時点で、クララのテンションもいきなりクライマックス。
『踊り子たちは星条旗を柄にした揃いの着物を着、頭には銀の星の飾り環をして、それは綺麗な衣装だった。
着物は片袖を脱いで、その下に星の模様の袖がまたあった。
帯は濃紺、草履は紅白で、やがて扇を広げると、片面はアメリカ国旗もう片面は日本の国旗で、驚きも極みに達した。』
星条旗に思い入れのあるアメリカ人にとってはたまらない“もてなし”だったろうね」
「その現場の光景が目に浮かぶようですわ」
「本当に日本人の最高の気配り&もてなしの粋だよね。
この一瞬のためだけに、守田座側はどれだけの手間暇をかけて準備してきたことか。
こんな衣装や小道具、普段の芝居で使えるわけもなく、このグラント将軍をもてなすためだけのフルオーダーメイドでしょうに」
「この公演に対して並々ならぬ決意があったのだと思いますわよ。
多分クララはあまり深く考えずに書き留めているのだとは思いますけれど、この一言が端的に守田座の置かれてきた立場を如実に現していますわ。
『島原に日本の貴族がこんなに集まったことは、かつてないことだ』
つまり、この公演が守田座、いえ、日本の歌舞伎界全体にとっての、未来を懸けたものだったということでしょう」
「なるほどね。今までずっと“日陰者”だった芝居が表舞台に立つ絶好の好機だった、というわけか。
そもそも江戸期を通じて、芝居は芸術なんかじゃなくて、あくまで庶民の娯楽。
しかもその公演内容が“お上”に都合の悪いものではないか、常時監視されてる状態。
華美禁止令が出ると、真っ先に槍玉に挙げられて、公演中止にされたりしていたしね。
勿論芝居が大好きだった大名たちも一杯いて、中には芝居の“座”の庇護者になっていた例もあるわけだけど、あくまで“お忍び”が基本だったし」
「そんな“日陰者”が海外から迎える国賓を、自らの芝居座に迎えて公演することになった。
これがどれほどのチャンスか、守田座側も分からない筈がなかったでしょう。
この公演を成功させれば、事実上“国のお墨付き”を貰えたようなものですもの。
事実、明治以降今日に至るまで“伝統芸能”として、保護されることになったのですから」
「そう考えると、クララは本当にエポックメイキングな現場に立ち会っているんだねぇ、当の本人が理解していたかは怪しいけど」
「日本人でも、その時点でそこまで理解していたのは本当に極々一部だとは思いますわよ。
ただ少なくとも守田座の座長は理解していたことが、この素晴らしい公演となったのでしょう」
「さて、今週のところはこの辺で……と思ったけれど、この芝居の日の記述で特に注目すべき点はまだあって……というか、クララにとって関係ないというか、極めて関係があるというか……」
「? いったい何を云っていますの?」
「なかなか愉快な一面も見せたくれた、クララの日記では今回初登場となる榎本武揚氏。
うちの父様との関係や、函館戦争で共に戦った大鳥圭介氏との関係で、ずっと前にクララと知り合っていても全然不思議ではないのに今頃になって登場したのは、多分この前年まで駐露大使としてロシアに赴任していたからだと思うんだけど……」
「? で、それがどうしまして? 貴女が何を云いたいのか、よく分からないのだけど?」
「う〜ん、激しくネタバレになるから書くか悩んだんだけど、書いちゃうか。
ずっとずっとずっと先のことになるけれど、この榎本氏の姪っ子が、うちの梅太郎の後妻になるんだよね。
クララが子供たちをみんな連れてアメリカに帰ってしまった後」
「………………」
「で、その二人の間に生まれた子供の子供、つまり孫が女医となって、第二次大戦終戦後、ソ連軍が殺到してきた満州で数多くの女性達を救うことになるのだけど、それはまた別のお話」
「………………貴女の血族、実はある種の呪いでも受けているんじゃありません事?」
(終)


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