Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第88回−4

1879年8月16日 土曜 
天気のよい八月の暑さと日射しにも負けず、私は忠実に図書委員としての仕事についていた。
しかし、先ずあの明白なる必需品「食事のための何か」を探しに開拓使に行かなければならなかった。
成功するかどうか疑わしかった。
というのは、近頃は絶対に何も買えないことが多かったからだ。
そこで私は役人を「口車に乗せ」てみようとした。
この方法は決して軽蔑すべきものではない。
私は女中をつれてヤクショへ出かけて行った。
うわべは控え目に見える若いレディに、深い企みが隠されていることを、そこの厳しいお役人が知ったら、なお一層いやな顔をするだろう。
私はまず役人のうち誰かが目を上げてくれるまで、慎ましやかに待つことにした。
何しろ西瓜と“とうもろこし”がかかっているので、じっと待っていた。
それから尊大な役人たちの一人一人にお辞儀をし、暑さの話を少ししてから吉沢郷党氏と話し始めた。
話題は果物を缶詰めにして保存するという彼の趣味についてである。
この件については、今まで何度も母が彼に助言をしたことがある。
吉沢氏は最後に私が使っている料理の本の名前を聞き、それを書いて下さいと云った。
私はうわべは喜んでいるような顔をして書いてあげた。
それから後で英語が分かるという感じのいい男の人と話を始めた。
間もなく吉沢氏曰く。
「アナタハ、キョウハ、ナンニモイリマセンカ?」
私は無造作に答える。
「サヨウ、ルーバーブ(食用大黄の葉柄のことだ)アラバ、スコシ カイマショウ」
こんなふうに買いやすいものから始めて、控え目に自分の欲しいものを要求する。
「ハイ、ハイ、ルーバープ、タクサンアルダロウ。コーン、イリマセンカ? イル? サヨウデスカ。
コレ! ダレカ! コーン! ジッポンモッテオイデヨ!」
二人の屈強な男が立ち上がり吉沢氏の命令を遂行する。
ついにルーバーブの茎を十本と、とうもろこし十本が、私の足元に置かれた。
とうもろこしは無理かも知れないと思っていたので吉沢氏にお礼を云って、それとなくとうもろこしを調べて見た。
やはり思ったとおり「かさかさで黄色い」鞘葉に入っていた。
そこで私はこれを持って来てくれた人に静かに云った。
「このとうもろこし、よくないですよ。馬食用にしかなりませんよ。
おいしいスイート・コーンを持って来て頂戴!」
その人は役人を伺うように見ていたが彼が頷くとすぐに、今度はとてもおいしそうなとうもろこしを十本持って来た。
次に私は西瓜を頼んだ。
しかし吉沢氏は首を振って云う。
「まだ畑に西瓜は一つも熟していないのです。うそでないことは私が保障します」
でも、ちょうどその時。
「ヘイ、だんなさん、おいいつけの西瓜です」
用務員が、どぎまぎしている主人の前に、ピンクの冷たい西瓜を大きな盆にのせて持ってやって来ると、ドサリと下に置いた。
「……………………」
「……………………」
しばらく互いに見つめ合ってしまってから、吉沢氏は驚いたように云った。
「ああ、そうそう思い出しました。西瓜を試食することになっていたのです。
お嬢さん、一切れ如何ですか? コガタナがありますからお切りくださって」
私はにっこり笑って切り返す。
「ありがとう。でも、母が病気で開拓使のメロンを食べてみたいと申しますので、これ私、いただいて行きます。
さあ、おハル、フロシキを持っておいで」
仰天している吉沢氏の前で、私は落ち着き払ってフロシキを広げた。
ついに彼は大声で云った。
「おやめください。そういうご事情なら立派な西瓜を差し上げましょう。
――おい、一番大きな西瓜を持ってきてくれ!」
目的物の他に三個のまくわ瓜まで獲得して、私は大得意で退出した。
外交とはまさにこのことだ。