Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第92回−3

1879年9月6日 土曜 
今朝、杉田先生のお宅から菓子折とお茶が届いた。
立派な漆のお盆に載せ、杉田家の紋が金糸で刺繍してある美しいフクサがかけてあった。
カーチャンが亡くなってから三十五日になるので、この贈り物は黒白のミズヒキ――贈り物の紐――がかけてあった。
お茶と大きな白い菓子はお葬式に使われるものである。
このような時には紅白のかわりに黒白の紐が使われる。
お菓子もお茶も人にあげてはならないので、それは贈られた家で使わなくてはならない。
私たちにはとても食べられないものだから、これにはまったく困った。
祝儀の時には赤飯が贈られる。
老人の快気祝いの時には、黒と白の塩を紙に包んで添える。
これは老人の白髪を表す。
こういうことは皆森夫人のお宅で教えて頂いたことである。
森家には午後お訪ねしたが、ご夫妻は、近いうちに一週間箱根にお出かけになるそうだ。
私たちは田中不二麿夫妻もお訪ねした。
ご夫妻ともご在宅で、とても愛想よく迎えて下さった。
田中夫人と母とが話している間に田中氏は私に日本語でどんどん話しかけられた。
アメリカのどこの州から来られたの?」
ニュージャージー州です」
私がそう答えると、この地名から思い出す一連の楽しい思い出を話された。
閣下は二度アメリカに行かれたそうで一度は岩倉大使と、次は開国百周年祭の時だそうである。
私たちの家族のことと、ささやかな学校のことをお聞きになった。
おいとましようとすると「お暑い中を遠路おいでくださってありがとう、またおいでください」と云われた。
とても愛想の良いご夫妻である。
ご夫妻のご経歴はとてもロマンチックだと思う。
ダイミョウだった田中氏と初めて知り合った時には奥様である須磨氏は京都の有名なゲイシャであった。
そのうちお二人は結婚し、当然の成り行きだが、芸者と結婚したというので田中氏は高い地位から追われた。
そしてそのことで財産は失ったが、妻という宝を得た。
夫人は勇気ある方で、現在のように夫が権力を持ち偉くなるまでずっと芸者という職業を続け、二人の生活を立てられた。
田中氏は妻の昔の貞節に対し尊敬と愛情で報いておられる。
奥様は今、本当に立派な奥方で、小太りだが色白で、物腰が静かで、芸者にありがちな冷たさなど全然ない。