Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第97回−1

1879年11月11日 火曜
今日はジェイミーとテニスをする約束をしたが、起きてみたらその段ではない。
滝のような雨で、晴れる気配はまったくない。
大山氏の赤ちゃんのおみつが昨晩死んだと今朝聞いた。
可哀想に、冷たい雨と風の中を旅立ったのだ。
だが知らなくとも救い主は、汚れなき子羊を天国に召されるために、外で待っておられたのだ。
キリストが哀れな母の心に慰めを与えられんことを。
清い、汚れのない地上の天使のような子供たちは私の胸をしめつける。
昨晩も、小さな黒鳥のような玄亀が私に抱きついてきて、悲しそうな声で云った。
「クララさん、オクニへ、オカエリナサルカ?」
「ええ、玄亀、そのうちにね。でもまだ行かないわ」
黒い髪を軽く叩き云う。
「行ってしまったらとっても悲しい」
「私もよ。でも一緒に行かれないかしら。どう?」
「イヤ、イカレマセン」
「どうして? アメリカにはいい子が一杯いるから、一緒に遊べるわよ?」
「日本人の子か?」
玄亀君は心配気にたずねる。
「ううん。アメリカ人」
「じゃあ、僕行きたくない。話できないもの」
「それじゃ、私が遊んであげるわ。それでどう?」
「でもクララさんは男の子じゃないもの」
心得顔に黒鳥君は云う。
私は笑って「友達の別当の子と一緒に行きたいか?」と聞いた。
「チョウちゃん? いやだよ絶対。悪い子だもの。だけどセイちゃんは連れて行きたい」
「ヤーちゃんも駄目ね」
「そうさ、ヤーちゃんも悪い子で、それに泣き虫だからね」
「それじゃ、セイちゃんにしましょう。あと誰にする?」
「うん。西村を連れて行こう。学校中で一番いい子だからね。あいつならいいよ」
玄亀は熱中してきて云った。
この後も、玄亀がこの子はいいとかあの子は駄目と云うのを聞いているのは面白かった。
まもなくアメリカ旅行に出かける子供の大団体ができあがった。
ジェイミーは子供とすぐ仲良くなる人で、五分ももたない中に玄亀とすっかり意気投合してしまった。
悪天候にもかかわらずドイツ語の授業がいつものようにあった。
今日の私はひどく神経質になっていた。
というのも、ランプがひっくり返ったり、カルカッタで汽船の事故があって、ヒンドスタン号が沈没した話を読んだりで、気が動転していたのだ。
アンガス氏も、トルコでイギリスとロシアの戦闘が再燃しそうな話をした。
「帰国した途端、入隊ということになるでしょうね」
ディクソン氏がそう云うので、私はぎょっとした。
「あなたが行ってしまわれることなど考えたくもありませんわ」
母が吃驚して私の言葉を代弁した。
「僕も考えたくはありません。でもいずれその時は来るのです」
見上げると、彼の澄んだ目には涙がにじんでいた。