Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第102回−2

1879年12月12日 金曜  
今日は、私の生涯でもっともつらい一日だった。
父が発ったのだ。
昨夜は二時まで起きていたが、今朝また早く起き八時前に朝食とお祈りをすませた。
お客がどんどん来るし、私たちは荷造りに忙しかった。
勝夫人、疋田夫人、内田夫人がお別れに来られた。
「この世でもう再びお目にかかれるとは思いませんが、天国でお目にかかれることを祈っております」
内田夫人は涙を浮かべて、別離を惜しまれ、私は心を打たれた。
やっと駅に着くと、杉田武、盛、津田、小鹿、マッカーティ夫妻、矢野と西田など大勢の人が見送りに来ていた。
生徒たちはグラント将軍にしたように、大きな紙を広げて送別の辞を読んだ。
父はとても喜んで紳士的に、威厳をもって別れの挨拶を交わした。
マッカーティ夫妻は横浜まで来て下さり、いろいろな話をしたりして私たちの気を紛らわせて下さったが、あまりひっきりなしにペラペラ喋るのでうんざりしてしまった。
だが良い人たちなのだから悪く云ってはいけない。
おまけにニューアークのランキン一家の親戚でとても親しくしているのだから。
初め写真館へ行き、父の写真をとり、それからシモンズ先生の家で落ち合うことにして、別々になった。
シモンズ家でお茶を飲んでから、父と私は、ヘップバン夫妻に会いに行った。
「この帰国できっと良いことがあるでしょう」
お二人は快活に云って下さった。
父はとても紳士的に――私はこの言葉を何度も繰り返しているが父は今まで離れた存在だったのであまりよく知らなかった――「この子がお宅に伺っている時は安心していられます」とお礼を云った。
それからシモンズ先生の家に戻ったが「日本で父が最初と最後に訪れた方が、ヘップバン博士であるのは不思議なご縁だ」と私はご夫妻に申し上げた。
父は六時に出たが、もう暗いから船までついてくるなと云うので、私たちは残った。
父と別れは予想していたよりつらかった。
初めて一家が離れ離れになるのだ。
私は悲しみにとめどなく泣いたが、父が「この方がいいのだ」と云うのは正しいと思った。
シモンズ夫人は、母親のように私たちを慰め、とても親切にして下さったが、お気の毒に、夫人自身はとても帰りたがっていらっしゃる。
八時の汽車で帰ったが、知り合いには誰も会わなかった。
ウィリイは一緒に来ることになっていたのだが、船に着くと部屋のことで間違いがあり、港の事務所に戻らなくてはならなかったので、十一時まで帰らなかった。
父は海軍の主計官のローリング氏という人と一緒に特等室に納まった。
船長はとても親切で、ベンジャミンという若い高級船員もできるだけ便宜をはかると約束してくれ、黒人の乗客係にはチップを七ドル渡した。
税関にフィッツジェラルド夫人から母宛に暖かいフランネルのシャツが入った小包が届いていたので、東京に持ち帰った。
家に戻ると、料理人が台所で酔っぱらって、大騒ぎをしていた。
ベルジック号は私たちの乗ったオーシャニック号の姉妹船で、大晦日にサンフランシスコに着く予定だ。