Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第105回−1

1879年12月30日 火曜
昨晩ウィリイと私はショー氏のところで楽しく過ごした。
ショー氏は素晴らしい幻灯を持っていて、ウィリイにこう云っていた。
「新しい景色を揃える手伝いを少しして欲しい」
ショー夫妻は本当に良い人たちだ。
私は二人を深く愛し尊敬している。
ショー夫人はいつも私にとても親切だ。
ロンドン出身だそうだけど、アメリカ人と全然変わらない。
ショー氏はカナダ人でトロント出身である。
ショー氏はロンドンにいる人々に紹介状を書いて下さるという。
ショー夫人は面白い情報を沢山教えて下さった。
あの気の毒なほどはにかみ屋のスコットランド人の宣教師デイヴィッドソン氏が、なんとミス・エルドレッドに熱烈に恋をしているという!
キューピッドの矢に射抜かれるとは、とても思えなかったのに。
彼はひどく内気なので、勇気を奮って「結婚して下さい」とはとても云えないでいる。
今日は珍客があった。
マイケル・マーフィーというアイルランド人の若い医者で、ウィリイに日本で職を探して欲しいという。
「ホイットニー夫人でいらっしゃいましょうか?」
はじめ私のことをウィリイの奥さんと間違えてそう云った。
ウィリイが横浜に行っていたのでマーフィ氏は昼食までいた。
しかし、こんなに面白い人に会ったことはない。
健康そうな感じのがっかりした青年で、口ひげを生やし顔色がよく、灰色の大きな目は落ち着いていた。
その上大変陽気な人で、日本に来る時の模様を説明してくれた。
だがまず第一に人力車の車夫二人との一騒動について書かなければならない。
マーフィ氏は駅で駄賃を決めずに車屋を雇ってしまったのだ。
「それで勘定をする段になって四十セントだと云われてしまいました。
いくらなんでも高すぎると思うのですが、一体どれくらいが相場なのでしょう?」
「一人あたり五セントで十分ですよ」
私はそう助言したのだけど、車夫の二人は「四〇セント以下は絶対いやだ」と云う。
荒くれ車夫たちは大騒ぎをして、駅からどんなに遠いかを声高に喋り、マーフィ氏に悪態をついて、おハルと喧嘩になりかけた。
おハルは恐ろしくなって二階の私のところに来て云った。
「お嬢さん、怖いごろつきです。四〇セント寄こせと云っています。
どうしましょう? 若旦那様もいらっしゃらないし」
「お金はここに置いて、下に行っていなさい。着替えが終わったら私が話します」
「一緒に参りましょうか、お嬢さん?」
「いいえ、こちらはいいから食事の用意をして。車夫の方は私が片づけます」
「でもお嬢さん、とても乱暴なんですよ。本当に悪くて、泥棒みたいなんですから」
着替え終わると、客間の戸を閉めて玄関に行き「車夫さん」と呼んだ。
すると目の前に現れたのは、凶暴の見本のような二人。
「儂らを誤魔化しそうとして、ひどい旦那だな!」
そんなことをいろいろ口々に云うので五月蠅くてたまらないほどだった。
「駅前から来たのですね?」
「はい奥さん、新橋からです」
「それで新橋から赤坂までいくらなの?」
「四〇セント下さいと云っていましたが、三〇セントで結構です」
「三〇セントですって? それはひどすぎるわ。駅からで三〇セントなんて!
私は五セントか、せいぜい八セントしか払わないわ。これはひどいわ」
マーフィー氏は私たちの容貌が大変イギリス風なので、私たちがイギリス系だと聞いても驚かないと云った。
私のことを、大変褒めてくれたが、いささか度が過ぎた。
ここに来る男の人たちはこんなにお世辞たらたらではないので、私はまったく鼻白んでしまった。
アイルランド訛りがどんなものかはよく分からない。
けれど、今日聞いたのが本物のアイルランド訛りなのだろうと思う。