Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第106回−2

1880年1月2日 金曜  
お正月はまだ終わっていない。
今日表に出たら子供たちはまだ晴着を着ていて、大変面白い羽根つきという遊びをしており、お店には松飾りがまだ残っていて、すべてがまだお祭りの装いだ。
天気は生憎昨日ほどよくないが、人々はまだ年始回りに忙しい。
おやおさんの母上である松平夫人が昨日亡くなられたと今日聞いて悲しい。
可哀想なおやおさん。
祝日でも彼女はちっとも嬉しくない。
大勢の使用人に囲まれて家の中に閉じこもり、心配と悲しみの中に時を過ごしている。
不運はよりによって的を定めてくるようだ。
彼女の以前の婚約者が亡くなられたのも年の押し迫った頃だった。
母と一緒に勝夫人に新年の挨拶に行くと、小鹿さんのために造った新座敷に通された。
子供や女の使用人たちは古い台所でつるつるの廊下を滑ったり、羽根突きをして遊んでいた。
大工がそばに立っていて羽根を突き損ねた者の顔に筆で墨を塗っていた。
竈や戸棚の立ち並んだ古くて古い台所には、みんなのはしゃぐ声が賑やかに響いた。
勝夫人と母はファッションについてお話をしたりした。
「新しい流行はすぐに飽きがきて、流行遅れになってしまうので好きではありませんね」勝夫人は云われた。
ちなみに、日本の着物は型はまったく変わらない。
しかし、私たちと同じように時によって一つの色が好まれたり、袖の長さや衿の形はよく変わる。
髪型や髪飾りはしょっちゅう変わり、ある時は丸髷が流行していたのに、いつの間にか少数のおかみさんしか結わなくなったりする。
私たちが東京に来たての頃は丸髷はすっかり廃っていて、誰も簪一本で髷をとめる三輪を結っていた。
簪も細長いものとか、鼈甲に金、珊瑚か琥珀に銀といった風に流行が変わる。
今大流行しているのは細い金簪だ。
富田夫人はお洒落で――勝夫人に云わせると若作りなのだが――先日夫人が富田夫人を訪れた時、簪が落ちそうに見えたので注意を促された。
「お縫さん、見事な簪が落ちそうでございますよ」
すると富田夫人は澄ましてこう云われたそうだ。
「いいえ、違うんでございますよ。まるで落ちそうに無造作に挿して、粋に見せるのが今の流行りなのですよ」
勝夫人は、云われた。
「こんなことはみんな馬鹿馬鹿しいことで、昔ながらのやり方が一番良いのですわ」
出発の話に触れたら、夫人もお逸も私の涙顔に同情して泣いた。
夫人は船まで私たちと一緒に来て下さると云われた。
午後はツリーの手伝いをしにショー夫人のところに行き、夕方また見に行った。
とても見事なツリーで、沢山の蝋燭や飾りやプレゼントで一杯。
本当に綺麗なツリーだった。
アンガス氏が私たちと一緒に来て下さり、アディは、大きな紋のついた提灯を持って先に歩いた。
途中私たちは沢山冗談を言ったり笑ったりした。
「マーシャル氏が結婚するのに自分は独身のまま。寂しいから奥さんをアメリカから送ってくれませんか?」
アンガス氏は、冗談で私にそう頼んできた。
「どんな方がお好みですか?」
「それはクララさんの見立てにお任せします」
「それではブロンドの女性は如何です?」
「いや、ブルネットの方が良いですね」
そう云ったアンガス氏は、私の手を取り「日本に残りたくはありませんか?」と聞いた。