Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第107回−1

1880年1月7日 水曜
月曜日の朝、富田夫人の家へ行って、おすしの作り方を教わった。
ご飯を炊ぎ、野菜、海苔、蓮根をきざんで、オシタジとミリンをかけた。
おツネが床にござをしき、私だちはかまどの前に坐っておすしを作った。
とても面白かった。
雇い人のタミが剽軽な顔を勝手口にのぞかせて笑いながら云った。
「お嬢さんはよい日本のオカミサンになりますよ」
火曜の夜、ウィリイ、アディ、こまつ、お輝、ジェイミーと一緒にショー氏の礼拝堂で開かれたオオウツシエ――大写し絵――を見に行った。私たちも行くつもりの場所がたくさん見られてとても面白かった。
ショー氏の幻灯はすばらしい。
富田夫人は今朝、父親が来るので使用人のおテルの髪を整えてやっていた。
おテルが父親と会っている間、私は坊ちゃんの相手をした。
坊ちゃんは私が大好きで、子猫たちについていろいろ話をしてくれるのだが、私にはちっともわからない。
彼はおもちゃもすぐ壊してしまう。
午後からは杉田氏と富田氏の招待で日本式の宴会へ行った。
ディクソソ氏も招待された。
盛が今朝、ナイフやフォークを借りにきた。
十二時半にディクソン氏が来て、一緒にでかけた。
はじめ杉田家へ行って、日本に初めて外国語を紹介した大学者の祖先である杉田玄白氏の立派な彫像を見せていただいた。
杉田家の大お祖母様は若々しくて陽気な方で、お茶を出してくださり「お別れするのが残念です」とおっしゃった。
それから名前はわからないが、新橋の近くのお茶屋に行った。
途中でディクソソ氏が後ろの車から、こう話しかけられた。
「ミスーホイットニー! 僕はあした、キリスト教会でお別れの挨拶という苦しい役目が待っているのです」
「それではたくさんハンカチを持って参りましょう」
「それがよろしいでしょう。僕の分がなくなった時のために十分持って行ってください」


お茶屋は広々として気持ちがよく、お給仕が大勢いたが、これはみな、十かそこらの小さな女の子にいたるまで芸者だということがわかった。
子供は三人、大人は二人で、私たちが茶菓を終えると歌ったり踊ったりした。
はじめ芸者たちは賑やかだが、レディ然としているよりに思えたので、それほど悪い人たちではないと思った。
鮮やかな縮緬の着物を着て、ばら色のほおをした丸顔のかわいい女の子が、ふちに真っ白な吹き流しのような布をつけた扇子を広げて、くるくるくるくる、まるで大きなくもの巣でもあるかのように舞った。
終わると手をついて挨拶をした。
もう一人の子は明らかにグループの厄介者だった。
細いキラキラした目はいたずらそうで、絶えず笑っている。
富田夫人のおつゆを持ってくる時、お盆の上にすっかりこぼしてしまい、別のを急いで持ってこようとしてひっくり返って、武さんと雄さんのうしろの障子が倒れててきた。
二、三人の女の子がそれをとめようとして走り寄ったのだが、この小菊は一番最後なのに一番先に行こうとして火鉢につまずいて、きれいなお財布を火の中に落としてしまった。
これは大変なことなのだ!
富田夫人によればこの人たちの着物は茶屋のもので、それを着るためにうんと働かなくてはいけないという。
彼女たちは陽気に美しく見えるけれど、本当はとても不幸なのだ。
最後の方で、西郷中将のごひいきの芸者の桃太郎が入ってきて琴をひいた。
伴奏の三味線をひいた女の人の手は見たこともないほど小さくて美しかった。
老女が笛を吹いた。
桃太郎は次に胡弓を弾き、能面のような顔をした老女はひどく大きな声をあげて鼓を勢いよくたたいた。
桃太郎は図々しくて、いやな人のようで、私はきらいだ。
彼女の眉はとても目立ち、目が合っても大胆にそらさない。
おまけに絶えずしゃべっている。
明らかにとても気がきいている。
食事の後、彼女はなれなれしく私に手をかけて、私の服や帽子、肌までもひどく無遠慮に褒めた。
食後の踊りはむかむかするほどで、もう金輪際彼女たちが良いなどとは思わない。
どれほど美しくとも、善良であるはずがないから。
富田夫人が私の耳もとでこう囁いた。
「この人たちはよくありませんね、慎みがなさすぎます。お母様は不快のご様子ですね」
おつゆに箸をつけながら、私たちは話を続けた。
「なぜ多くの日本人青年が堕落しているか、おわかりでしょう? 芸者のせいなのです。
男の子が産まれる前はこんなことを考えたことありませんでしたが、今は息子が心配で。
でも、こんなことがわかるようになる前に、外国にやるつもりです」
「本当にお母様らしいお心づかいです。でも外国にも悪い事はございますよ」
「はい存じておりますとも。だからどなたか敬虔なクリスチャンの家族に息子を預かっていただきます」
「それは良いお考えです。真のキリスト教精神しか、このような罪を克服することはできません。ご子息が善良で気高い人になられることを心から望みますわ」
「神にそうお祈りしております」
夫人は慎ましくそう答えた。
それから鬼ごっこをした。
半玉たちは賑やかにはね回り、小菊は私になついてまつわりついた。
「名前は何とおっしやるの? わたしはあなたが誰より好き」
私は頬を軽く叩いて云った。
「私の名はクララよ、きーちゃん。
でもどうして私か好きなの? 今まで会ったこともないのに」
「やさしいし、きれいな服をきて、肌が自いから。
でもどうして私がきーちゃんだってわかったの?」
「さっき聞いたから。耳がいいのよ」
「クララさん、どうぞ私をアメリカにつれて行って」
「そうね小菊、そうしてあなたを正しく導けたらよいのにね」
私たちは夜八時半頃家に着いた。