Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第110−3回

1880年1月24日 土曜  
昨晩は家で寝たが、布団が足りないので勝夫人がたくさん貸してくださった。
母はウォデル氏の家での祈祷会に行ったが、私は勝家に残った。
明日発つというので私は気が滅入ってしかたがなかったが、奥様はとてもやさしくしてくださり、自分の炬燵に私を入れ、少女時代の面白い話をしてくださった。
私はお逸としばらく坐り、いっしょに聖書を読みお祈りをしてから家に帰った。
今朝は三時に起きて荷造りをし、朝食は勝家でとったが、食べ終わらないうちに客が来だした。
殆どが日本人で、九時前にすでに家は客で一杯になってしまった。
来てくれるのはいいのだが、出発準備でいそがしいのに長居をするのでありがた迷惑だった。
老婦人だちとのお別れは、もう二度と会えないだろうと思うので、一番胸が痛んだ。
岡田夫人とは上手くいったが、内田夫人のおば様の時は、私はすっかり胸がいっぱいになってしまった。
私はおば様がとても好きになっていたのだ。
お逸ともお別れをした。
涙にむせてほとんど物も云えないので彼女を抱くようにして、私はこれだけ告げた。
「さようなら、最愛の友よ、神の祝福がありますように」
お逸も目にいっぱい涙を浮かべて私にキスをした。
「ああ、クララ、これが最後なのかしら」
そう云うと、お逸は炬燵に顔をうずめてしまう。
私は悲しさのあまりお逸をそのままにして飛び出してしまった。
私たちはふたたび会うことがあるだろうか?


来客とは簡単に別れの挨拶をし、やっと私たちの家のあるころび坂を出発した。
だが坂の下で人力車に会った。
乗っているのは、長いこと音沙汰無しになっていた渡辺おふでさんだとすぐわかった。
私は人力車をおりて「いつ東京に来たのですか?」と聞くと、きのう来たばかりで私に会いに来たという。
「それでクララさんはどちらにお出かけですか?」
アメリカに帰るところです」
これを聞いた時の彼女の顔と「ああ残念ですわ」と言った彼女の口調を忘れられない。
ウィリイがせかすし、後ろでは人力車が何台も待っているのでおふでさんは駅までいっょに来ることになった。
十四台もの人力車が連なって駅につくと、またも大勢の友達、生徒、女の人たちが待っていた。
その十五分間に誰に話をしたか全然覚えがない。
ただやたらにお辞儀をし、お辞儀をされたこと、誰かが私にキスをして泣いたこと、大鳥氏の上着のラベルに涙が一杯ついていたことだけを覚えている。
また見送りの人たちが、待合室から汽車のところまで長い列になって、手をさしのべながら「さようなら」を云ったことも、ぼんやりと覚えている。
こうして私たちはたくさんの楽しい思い出といやな思い出の舞台となった東京を発った。
空は明るく澄み、本々は揺れ、子供たちは陽気に遊び、人々は楽しげに話をし、行きずりの人もいつに変わりない。
この東の都をふたたび訪れ、街を歩き、快活な人々にふれあうことができるだろうか? 
だが、すべては終わった。よいことも悪いことも。
私たちはこを去るのだ。
何人かの友達は横浜までいっしょに来て、シモンズ博士の新居で昼食をとった。
勝夫人は横浜に来たことも外洋船に乗ったこともなかったので「浜」とジャネイ号は初めての経験だった。
内田夫人と疋田夫人は汽車にこれまで乗ったことがなかった。
だが別れはどんどん近づき、ついにイギリス波止場で涙ながらにお別れをした。
勝家の人たちは人力車に乗って駅の方に戻って行き、私たちは波止場に立って、見えなくなるまで手を振った。
それからシモンズ家へ戻った。