Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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帰ってきたクララの明治日記 第6−1回

1883年5月8日 火曜日 氷川町
私の生活は変わったように見えるが、それでいて、不思議に普段のとおりだ。
私の生活に関係するあらゆること、家のこと、読書、書きもの、教えること、そして私の考えまでもがすべて、私の大切な母の考えと絡み合い、母は私の生活から絶対に消えることはありえないのだ。
私は母を失ったようには感じない。
というのは母がまだそのままここにいるかのように母のおだやかな影響が続いていて、私はただもう、母の望んでいることを注意深く行っているからだ。
ほかの皆もそうだ。
アディはもちろん私ほどには感じてはいない。
私より年も若いし、私ほど母と交渉をもたなかったから。
しかしウィリィは――ああ、可哀想に――母を偶像視していたほどだし、母にとっては息子以上のものであったから、母の生涯のすばらしい影響を、はっきりと感じとっているように思われる。
ウィリィは母の部屋の中のものを、何一つ変えることを許さないだろう。
そこは私たちにとって今や一種の聖域なのだ。
でもウィリイはそこにいると天国を一層近くに感ずるからそこで眠るのだと言っている。
そして本当にそうなのだ。
この神の国の入口は、母がそこで神に捧げた熱心な祈りによって聖められた。
私はそこで母と、二人だけで過ごした朝をよく記憶している。
「いっしょにお祈りをするほうが祈りがすぐにかなえられるようだ」
母はよく云っていた。
それは私か十歳か十一歳のころからの習慣であり、母は天なる父について自分が感じているとおりに私も感じるようにと教えてくれた。
一、ニカ月前に、母が捧げた祈祷の言葉を私はなんとはっきりおぼえていることか。
「おお、神よ、神の道を歩まんとするこの若き者をみそなわせ給え。
彼女を真理の道におき、虚栄からその眼をそむかしめ給よ」
これは母の大好きな祈祷であった。私の眼を虚栄からそむかしめ給え。


日本人は私たちにとても親切で、私たちは前にもましてますます責任を感じる。
私たちは、母の荷がどんなに重かったか感じはじめている。
それは、私たちが母の判断をいつも信頼し、あらゆることで母によりかかっていたからである。
私たちは、しげしげと青山にお参りに出かけ、母の貴い遺体の安息所をきれいにしている。
そしてあと三人の墓のための余地のあるそこを「私たちの場所」と呼んでいる。
疋田夫人が、ある日曜日いっしょに行ってくださり、次のように言われた。
「私は新しい考えを持っているので夫の家族とごたごたしています。
東京にお寺と墓地があり、私はそこに異教の儀式でいつかは埋葬されるのです。
私はクリスチャンになったのだから、異教徒として火葬にされ埋葬されることには同意できません、と皆に言いました。
あなたの懐かしいお母様が誰にも妨げられることなく、あたかも眠っているかのように安らかにそこに横たわっていらっしゃるのを見た時、お母様の平安をうらやましく思いました。
そして今私はお母様のそばにキリスト教の儀式で埋葬されたいと思います。
火葬の恐ろしさを考えるといつも死ぬのが怖くなります」
私は、うちの客間で洗礼を受けたあとすぐに亡くなった日本の老人の改宗に、疋田夫人が力となられたということを耳にしていた。


日曜日の夕方、私たちはおごそかな集会を開き、クリスチャンたちと祈り、読み、話をした。
その後母のうるわしい人生について語り、この人たちの改宗は母のお陰だと話し合った。
ヨシは立ち上がって言った。
「私はもう三ヵ年も信仰をもってきました。私はこの部屋のあそこで初めてキリストのことを聞きました」
そしてドアのそばの一カ所を指差しながら云った。
「あそこで洗礼をうけました。私と他に六人が」
ヨシは牧師になろうとしている。母が播いた種からどんな収穫があるのだろうか? 
私たちが再会する時、母を喜ばせるような稲の束を持って行けるよう、神よみそなわせ給え。
勝夫人は先日ここで長い間母の生涯について語り、母がはるばる二回も来日し、二回とも両家がお互いに近づき合っているのは不思議なご縁だとおっしやった。
また奥様はこうも言われた。
「お互いの愛情と尊敬の念は素晴らしいことです。
きっと、神様が私たちには何だか分からないけれど、何かの目的のためにこうお命じになったのでしょう」
奥様は、母が今回はただ死ぬために来日したようなものだけれども、それでもなお、母の人生が、死が、そして日本へのみごとな献身が決して無駄ではなかった、と心から思っておいでになる。