Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

帰ってきたクララの明治日記 第7回−1

1883年5月16日 水曜日
私は最近一人ほっちでいることが多い。
だから、考えたり計画を立てたりする時間が十分にある。
私は昨夜兄と楽しい語らいをした。
兄は神の国にふさわしい善良な人のように思える。
最近大統領からアメリカ領事館の通訳に任命された。
私たちにいつもとても親切にしてくださるビンガム公使は、任命のための申請書を三枚作ってくださり、ご自身で夫人といっしょにそのニュースを知らせに来てくださった。
もっとも私たちはビンガム公使の来訪の前に既にフィラデルフィアニューアークの新聞で、ウィリイの任命についての二つの記事をみていた。
「望みどおりの通訳を得られて、自分自身におめでとうを言いたいくらいだ」
ビンガム公使は、そう言って喜ばれた。
母が存命だったら、どんなに喜んだことであろう。
でも、すでにそれを知っているかもしれない。
任命を申請する前から母は知っていて、ウィリイがその地位を得ることをたいそう望んでいた。
だが母が長い間待ち望んでいたこの幸せな境遇を私たちといっしょにこの世で頒ち合えなかったことは、何としても悲しいことである。
しかし神は、母をもっとよい境遇へと連れて行かれた――ただそれは私たちからずいぶん遠方ではあるが。
アディはクレッカー夫人のお子さんたちとの勉強に出かける。
私たちはアディのこの幸運を喜んでいる。
が、一方アディとしては、自分が旅行したり、家の手伝いをしている間中、ずっと勉強をしていたこの子供たちに比べて自分の方が無学に思えてがっかりしている。
そんなわけで、私は午前中たった一人残されて小さい子猫を友としていた。
六蔵が来て一時間話をし、午後には玄亀が来た。
ウィリィと私はギリシャ語の勉強をいっしょにはじめ、英語・ギリシャ語・日本語・清国語の聖書を比較するのがとても面白い。


私は、私が初めて書いた本『アグネス・セント・クレア』を一部受け取った。
しかしこれを喜んで読んでくださり、またこれを見たがっていた人がもうこの世にはなく、そしてこれを褒めてもらうことも叶わない今、私はあまり喜ぶことはできない。
ああ、母はどんなに待ち、それを見たがっていたことか。
そして郵便配達のたびにそれが届くのをやきもきして待っていたのに。
ちょっと遅すぎた。
私は事実、思っていたほど、悲しみに打ちひしがれてぱいない。
それでもこの苦しみはその恐ろしい力で私の上にのしかかった。
しかし私はなぜか非常に心安らかである。
私が恐れていた喪失感も感じない。
あたり中に母の品物があるし、ベッドはそのままであり、母の望みは叶えられ、信じる神がある程度は拝まれているし、私は母が遥か遠くへ行ってしまったようには思えない。
母の魂はたしかに我々に受け継がれている。
実際私が母であり、昔の私自身がなくなってしまったように感じることがよくある。
それから私は、昔の私自身の醜く邪悪な性が出てきていて、自分の魂が母の美しく、やさしい魂ではないという事実に目覚め、魔法がとけてしまうのである。
私の大切な母は私ぐらいの年齢の時大きな試練にあっている。
母は昔よく外に出て、淋しい我が家の人目に腰を下ろし、死を願ったりもした。
まだその頃は、後に母の特徴となった神の力を信ずることは経験していなかったのである。
そして私か生涯持ちえた輝やかしいお手本も、母は持ってはいなかったのである。
私は母の人生を受け継ぎ、母が歩んだように進んでゆく。
私の命は母のもの、母の命は神のもの。
あらゆる状況のもとでいかに処すべきか決めるのはとても難しいことであるが、母はいつも立派にやりとげていた。
その点で私は母を慕わしく思うことがしばしばである。
母は真の威厳をもち、あらゆる点で尊敬をかち得ていたが、私の威厳といったらまるでお話にならない。