Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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帰ってきたクララの明治日記 第12回−1

1884年4月1日
アディと私は、先日、日本人の結婚式に行った。
友人の内村鑑三氏が3月28日の夜の結婚式に招いてくださったのだ。
ウィリィはひどい風邪をひいていたので、アディと私とが、津田氏とお嬢様に連れられて出席した。
葉書の招待状が来たが、上野の池の端にあるお茶屋とのことだった。
午後人力車で出かけた時には雨が降っており、市内を一時間以上も乗って到着した。
お茶屋の入口まで行くには、いくつかの反り橋が続いているところを渡って相当歩かなければならなかった。
美しい着物を着た婦人に、ベランダのところで迎えられ、そして裏の部屋に案内され、そこで上に着ていたものを脱いだり、持参したお祝いの贈り物を渡したりした。
式場に入ってから席につくまでに一騒ぎ。
というのは美しく着飾ったご婦人が私たちに上席に坐るようにとおっしゃったからだ。
津田仙氏の長女で、上野栄三郎夫人であるお琴さんはさんざん説得されて、ついに、紳土方に向かい合っている婦人方の長い席の一番上席についた。
客は二列に向き合って、床の上に坐ったが、男性の側より女性のほうが少なかった。
外国人は、キリスト教の式を司るハリス氏と、内村氏の前の先生で札幌から来られたカター博士のほかは私たちだけであった。
紳土方のなかには、津田、長田、加藤、門屋、小崎の諸氏の他にも、よく知った方のお顔が見えた。
一方女性方は、ほとんど知らない人ばかり。
一時間余りも待ったが、その間に紙で花や鳥を作って時間つぶしをする婦人もいた。
話は結婚や花嫁のことばかりで、私か出席したことのあるコプト人の結婚式の話をしたところ皆とても面白がった。


横のドアが開くと、少しざわめきが起こり、一同が立ち上がった。
そこへ内村氏は、仲人のご主人に腕をとられて現われた。
後にはご家族――父上、母上、妹さんと弟さんが続いた。
次に花嫁が出て来た。
立派に着飾ったご婦人が付き添っていたが、花嫁のおかげで貧弱に見えた。
花嫁は、感じのいい顔立ちの、見たところ二十三くらいの小太りの人であった。
しかしあとで聞いたのだが、たった二十歳だそうである。
紅白の縮緬の美しい衣装をつけ、その上に、お姫様のものかと思われるような、美しく刺繍した打ちかけを着ていた。
髪はマルマゲに結ってあり、アゲボーシという四角のかぶりものを額の上につげていた。
花嫁の家族が続いて入場して、全員が部屋の向こうの端に、客席に向かって席を占めた。
一同ひざまずき、ハリス氏がお祈りをした。
それから一同はふたたび起立し、ハリス氏は、メソジスト・監督派の式を日本語で行なった。
内村氏はこの衆目の中で、落ち着いて問いに答えた。
しかし花嫁は丁寧に頭を下げただけであった。
この美しいキリスト教の式を初めて見た日本人は、きっととても珍しいと思ったに違いない。
確かに、キリスト教の式は当事者にとっては、拘束力があるように見える。


式が終わると、ハリス氏は後ろにさがって、満足気に手をすり合せて一同に向かい「内村様御夫妻」を紹介した。
間違いかもしれないけれど、出席者の中には、この言葉を聞いて花嫁がクスクス笑ったように思った者が何人かいた。
次に客は一人一人出て行って、幸せなお二人にお祝いを言った。
各自が違ったお祝いの仕方をしているのを見るのは、なかなか面白いものだ。
ある者は進み出て、遠くの方から畏まってお辞儀をする。
ある者は、外国式に握手をする。
カター博士は、くつろいだ様子で無造作に歩いて行き、「やあ、おめでとう」と言った。
またある者は畳四、五枚離れたところに坐ってお辞儀をした。
私が握手をすると、花嫁は私の手をぎゅうと握った。
続いて行なわれた結婚披露宴では、花嫁はまわりに集まった友人たちがいくらすすめても、何も食べなかった。
かわいいおすましやさん! 
花嫁はうつむいて、後ろにいた友達の手に何やら字を書いていた。
談笑したり食べたりしながら九時頃までいて、新婚のお二人にさよならを言って、帰って来た。
まだ雨が降っていたので、長田氏はご親切にも長い着物の裾を帯にはさんで、人力車のところまで日本の大きな傘をさしかけてくださった。
津田氏は家まで送ってくださった。
相当遅かったし、疲れてびしょぬれだった。
内村氏はウィリイの親友で、私の知人の中で最も理知的で注目すべき日本の青年の一人である。
非常に熱心なクリスチャンであり、同時に聖職名たちの華である。
普通のいわゆる宣教師ではないが、常にその身辺に宗教を携行しているとでも言おうか。
内村氏は率先して日本人のために尽くした。
新婦は、旧姓は浅田といい、横浜の、ミス・ブリテソの生徒で、やはりクリスチャンである。
きっと、幸福なクリスチャンの家庭を築くことだろう。
追記.……この八ヶ月後、内村氏はこの浅田タケさんと離婚なさった。