Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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帰ってきたクララの明治日記 第13回−1

1884年4月25日
今日初めて日本の天皇様にお目にかかった。
天皇陛下が外交団と日本の華族の方々をお浜御殿へ観桜と昼食に招待された。
一時半に御殿に向けて出発し、ほどよい時間に到着した。
化粧室に案内され、そこで待ちかまえていた宮廷に仕える三人の美しい女性が、私の毛皮のケープ、パラソル、手袋を預かり、衣服にブラシをかけてくれた。
間もなくビンガム夫人、ワッソン夫人、ビンガム嬢とラッシュ夫人が到着し、一緒に御殿の部屋に行き、私たちの一行全員が着いたと思われる時まで、しばらく立って美しい家具や掛け軸などを拝見していた。
わが国の公使は外交団長なので、ほかの代表全員を先導することになっており、その通りなさった。
ビンガム夫人はご主人の腕にすがり、ワッソン夫人と海軍のマッド氏、ビンガム嬢と海軍軍医、ウィリィと私、それにカワード氏が続いた。
私たちの後ろにはフランス、ドイツ、イタリア、オーストリア、ロシア、清国の外交団が続き、制服や婦人たちのお国風の装束や美しい服装で華やいでいた。
私たちは池のほとりの木の下で打ち興じていた日本の地位の高い方々に加わり、そこで多くの高位の人々に紹介された。
ビンガム夫妻は本当に親切だった。
機を逸せずに私を最も愉快な方々に紹介してくださった。
「このお嬢さんは私たちの仲間です。私たちの公使館の人です」
公使は私を紹介してくださるのであった。
このようにして私は清国公使、オーストリア公使、ハワイ公使、鍋島直大元老院議官そのほかの方々にお会いした。
徳川様と随員の方にもお会いしたし、イギリスから帰国されたばかりの森夫人とも楽しいおしゃべりをした。
森夫人は昔とちっとも変わらず美しい。
輝く目に涙を浮かべ、深い感情を込めた声で母のことを話された。
そして私はあの華やかな場面の中でも母のことが忘れられなかった。
天国の交わりを楽しみ、王の王なる神をその栄光の中に見つつ天国の庭を歩いている母を思った。
私の着ているこの服も母を思い出させた。
一緒にロンドンのトテナム・コート・ロードのダンカン・スミス店で買ったものだ。
大変豪華で、当時の私にはやや不釣合であったげれど。
でも母は言った。
「クララ、買っておくことをすすめますよ。今は使うことはできないかもしれないけれど、日本で園遊会に行くようなことがあったら丁度いいでしょう」
母の先を見通す深慮は、この可能性を見ていたのであった。
おお、大切なお母様!
もし母の誕生日を私がどのように過ごしたかを知られたら……。
さて、私たちは間もなく散歩道をもう一まわり歩き、美しい濯本や桜の花を観賞し、一緒になったどなたとも楽しい会話を交わした。
皆さん私にはとても親切だったが全てはビンガム夫人の親切な庇護によることは私にはよくわかっていた。


公使が冗談めかしておっしやったように、一時間以上も「うろついた」後、ついに私たちは再びお池の近くに呼ばれた。
陛下と皇后様がお越しになるので一列に並ぶように言われた。
外交団は直ちに随員と共に砂利道の片側に、招待客は反対側に並んだ。
私たちのグループが最初に来て、それからドイツ、フランス等の人々が皆並んだ。
輝やかしい皇室の行列が近づいた。
先頭にフランスの軍服を召した天皇様が歩まれた。
最初天皇様とはわからなかったが、写真から想像していたより、ずっとご立派に見えた。
背丈は約五フィート八インチか、多分もう少し低いかもしれない。
お顔の色は明るいオリーブ色でやや重厚なお顔立ち。
お顔には小さい山羊ひげと口ひげがあり、快活で温和な表情をしておられた。
陛下は公使とその夫人たちと握手をされ、通訳を通して彼らの礼儀正しい言葉を聞かれると優雅に頭を下げ、微笑された。
ドイツの伯爵夫人にお手を差し出されると、夫人は急に身をかがめて礼をし、片方の膝、が地面についてしまった。
陛下がお目の前にふわふわした絹のレースをご覧になった時、その温顔に半ば面白がっておられるような、半ば当惑されていらっしゃるような表情が見えた。
次に皇后様が、美しい錦の長着を召して来られた。
外側はたくさんの豪華な模様のついた濃い美しい水色の緞子で、赤い緋袴と真っ白な内着を召され、お靴をはいて、豪華な刺繍と深い縁飾りがある美しいフランス式パラソルをお持ちになっておられた。
皇后様はお小さかった。
とても小さく、華奢で、高貴な貴族的顔立ちと、豊かな下唇をお持ちであった。
儀式の時の慣例に従って厚化粧をされ、御髪は独得の平たい宮廷様式で、油を十分つけ、束ねて長くうしろに下げておられた。
皇后陛下も握手され、公使たちの慇懃な挨拶に応えて、愛想の良いお言葉を返された。
女官たちも、鮮やかな藤紫、緋、緑、水色等の衣服を身につけていた。
ビンガム夫人があまり疲れて、ほかの方々のように華やかな行列に加わることができなかったので、ビンガム氏は夫人と私を、茶菓が用意されてある近くの天幕に連れて行ってくださった。
ここで私たちはお行列の先頭が築山をまわって現われるまで待っていた。
素晴らしい光景であった。
堂々とした陛下のお姿、宮廷の婦人たちの華やかな衣装、外国公使夫人方の目立つ軽やかなパリ仕立の洋服、館員夫人たちのねずみ色や山鳩色の比較的地味な衣装、清国公使館の人々の鮮やかな絵のような服装――そのすべては私の心に決して忘れ得ぬ印象を残した。
天皇陛下が天幕に入られると、孤立していた私たち三人は立ち上がって深いお辞儀をした。
また皇后様にもした。
それから皆に続いて入り、すばらしい昼食をご馳走になった。
婦人たちは坐り、紳土方は珍味の並んだ食卓から気前よく婦人方に食物をとってあげた。
私の知人の日本の紳土方がまわりに来て、私たちは愉快な時を過ごした。
しかし、ビンガム嬢が提督にもっとケーキを持って来ることを命じたり、お皿をどけるようにと貴族某に命じたり、公使にレモネードを要求したりしているのを見て、婦人に仕えるのとは逆に、仕えられることにのみ慣れている日本の紳土方はどんなに奇妙に思ったことであろう。
しかし日本の男性方にとってかえってよかった。
ラッシュ夫人ははっきりと、日本の紳土方は申し分なく魅力的だと言っておられた。
皇室のご一行が天幕からご退出ののち、私たちは後からゆっくり、自分たちの乗り物まで行き、とても楽しい気分で家路を急いだ。
帰宅すると、お逸と吉原夫人が待っていらっしやった。
その上に泊まりがけのヴァン・ペッテン夫人もおいでになった。
あしたはまた郵便日で、書かなげればならない手紙がたくさんある。
この前の手紙によれば、モリスタウソのウィルおじさまが急死なさったそうだ。
長生きの家系の出なのに。
お気の毒なリビーおばさまのことが案じられる。