Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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帰ってきたクララの明治日記 第13回−2

1884年5月6日 火曜
今日は、キリスト教信者の尾崎夫人<従五位の方の夫人>のお宅での婦人祈祷会に内田夫人とご一緒した。
「幸町」と言うのが渡された住所で、かなり探して、幸通りを見つけた。
とうとう家探しに成功して、つつましいお住まいの玄関に立った。
たくさんの女性たちの声のざわめきが聞こえていた。
玄関は下駄で一杯。
虎ノ門教会の和田牧師とこの家の主婦にお目にかかったが、この方は内村氏の結婚式にお仲人をなさった方だ。
中に入ると、立派なオルガンがいつでも使えるように置かれている広間があった。
隣接する二つの部屋にはあらゆる年齢層の婦人たちが、お茶を飲んだり、長いキセルで煙草をすったり、誠に社交的な態度でおしゃべりをしていた。
私たちは一つの部屋の仲間の間に座を占め、部屋のまわりのお花や骨董を観賞した。
その部屋はあちこちに優美な小物を置いて、やや西洋風に装飾されていた。
私は婦人たちが部屋のまわりに着席した時に、皆が注意深く、入口の反対側を避けるのに気がついた。
やがてそこが“トコノマ”すなわち上座であることがわかった。
誰も入口の近くの末座に坐ろうとしていた。
「さあ、オバーサン、あそこに坐ってくださいませんか」
尾崎夫人はいくらそこに人を坐らせようとしても、なかなかうまくいかないので、一番年上の婦人におっしゃった。
「とんでもない。ここが大変坐り心地がよろしゅうございます」
そのオバーサンは敷居の上に坐って答えた。
尾崎夫人は笑って、仰った。
「どうしてどなたもあそこに坐ってくがさらないのでしょう」
「ほんとにね。オバーサンがあそこに坐ってくださらなくっては。この中で一番お年上ですもの」
一人の婦人が言った。
「オバーサンの聖書をここに置きましょう。そうすれば、ここに来なげれば取れませんもの」
尾崎夫人は聖書を置きながらこうおっしゃった。
「そうよ。そうよ。オバーサンはあそこに坐らなければいけないわ」
数人が口をそろえて言った。
「その席にはお若い美しい方々がお坐りになったほうが良いでしょう。私のような年寄りは人目につかないところにいなければなりません」
オバーサンは笑って下座にしがみついていた。
尾崎夫人は絶望してあきらめ、次の人が着くのを待った。
その人は前の愉快ないきさつをまったく知らずに誰も坐らない席に着き、一同の顔に微笑が浮かんだ。
しかしオバーサンは遂に最上席の次の座に坐らされた。
今井夫人と二人のお嬢さんを除いて全員が到着したが、今井夫人は祈祷と提案には頼りになる人物であったので、集まった一同は丸一時間待ってその間写真に興じていた。
ようやく遅刻の方が到着。
十五人から二十人の一人一人とお辞儀をして、始める準備ができた。
「今日の司会は笠原さんの番ですわ」
今井夫人は一同が落ち着くとおっしやった。
「まあ、それは駄目ですわ」
桜色の丸顔の若い婦人が急いで叫んだ。
「とてもとても今井様やそのほかのこんな頭の良い方々の前でとても司会など務まりませんわ。どうぞお許しください。心構えをしておりませんもの。今日は和田夫人が司会をなさるべきだと思います」
「それは駄目です」
大きな赤ちゃんをあやしていた和田夫人が叫んだ。
「私は無知な田舎者でございますから」
「それでは尾崎夫人が司会なさるべきです。私たちはお宅に集まっているのですから」
「皆様、お許し願いとうございます。ご存じのとおり、私にこんな集会に出たことがございません。どのように会をすすめていったらよいのかまったくわかりません」
尾崎夫人は青ざめておっしゃった。
「では私たちがお教えいたします」と一人が言った。
尾崎夫人は不愉快な顔をなさり始めたので、一同は、ふたたび笠原夫人に向かった。
笠原夫人は、本当は最初から司会することを期待していたにちがいないのだが、しぶしぶ司会を引き受け、何度も途中で、「このようでよろしいのでしょうか」「間違っておりませんでしょうか」とたずねた。
私はオルガンを弾いた。
それから司会者が祈り、そのあと、ルカ伝第四章を読んだ。
次に一まわり祈祷が続き、ふたたび歌ってから、和田牧師の日課についての講話があり、そのあとで茶菓が運び込まれ、ふたたび四方山の話になった。
お客様はそれぞれ山盛りの五目寿司をいただいたが、五、六さじで十分おなかがいっぱいになる。
何人かは紙に包んで袂に入れた。
内田夫人は、私にもそうするようすすめられた。
でも私には入れる袂がない。
家に着いだのはまさに六時であった。

1884年5月6日 火曜
今日は、キリスト教信者の尾崎夫人<従五位の方の夫人>のお宅での婦人祈祷会に内田夫人とご一緒した。
「幸町」と言うのが渡された住所で、かなり探して、幸通りを見つけた。
とうとう家探しに成功して、つつましいお住まいの玄関に立った。
たくさんの女性たちの声のざわめきが聞こえていた。
玄関は下駄で一杯。
虎ノ門教会の和田牧師とこの家の主婦にお目にかかったが、この方は内村氏の結婚式にお仲人をなさった方だ。
中に入ると、立派なオルガンがいつでも使えるように置かれている広間があった。
隣接する二つの部屋にはあらゆる年齢層の婦人たちが、お茶を飲んだり、長いキセルで煙草をすったり、誠に社交的な態度でおしゃべりをしていた。
私たちは一つの部屋の仲間の間に座を占め、部屋のまわりのお花や骨董を観賞した。
その部屋はあちこちに優美な小物を置いて、やや西洋風に装飾されていた。
私は婦人たちが部屋のまわりに着席した時に、皆が注意深く、入口の反対側を避けるのに気がついた。
やがてそこが“トコノマ”すなわち上座であることがわかった。
誰も入口の近くの末座に坐ろうとしていた。
「さあ、オバーサン、あそこに坐ってくださいませんか」
尾崎夫人はいくらそこに人を坐らせようとしても、なかなかうまくいかないので、一番年上の婦人におっしゃった。
「とんでもない。ここが大変坐り心地がよろしゅうございます」
そのオバーサンは敷居の上に坐って答えた。
尾崎夫人は笑って、仰った。
「どうしてどなたもあそこに坐ってくがさらないのでしょう」
「ほんとにね。オバーサンがあそこに坐ってくださらなくっては。この中で一番お年上ですもの」
一人の婦人が言った。
「オバーサンの聖書をここに置きましょう。そうすれば、ここに来なげれば取れませんもの」
尾崎夫人は聖書を置きながらこうおっしゃった。
「そうよ。そうよ。オバーサンはあそこに坐らなければいけないわ」
数人が口をそろえて言った。
「その席にはお若い美しい方々がお坐りになったほうが良いでしょう。私のような年寄りは人目につかないところにいなければなりません」
オバーサンは笑って下座にしがみついていた。
尾崎夫人は絶望してあきらめ、次の人が着くのを待った。
その人は前の愉快ないきさつをまったく知らずに誰も坐らない席に着き、一同の顔に微笑が浮かんだ。
しかしオバーサンは遂に最上席の次の座に坐らされた。
今井夫人と二人のお嬢さんを除いて全員が到着したが、今井夫人は祈祷と提案には頼りになる人物であったので、集まった一同は丸一時間待ってその間写真に興じていた。
ようやく遅刻の方が到着。
十五人から二十人の一人一人とお辞儀をして、始める準備ができた。
「今日の司会は笠原さんの番ですわ」
今井夫人は一同が落ち着くとおっしやった。
「まあ、それは駄目ですわ」
桜色の丸顔の若い婦人が急いで叫んだ。
「とてもとても今井様やそのほかのこんな頭の良い方々の前でとても司会など務まりませんわ。どうぞお許しください。心構えをしておりませんもの。今日は和田夫人が司会をなさるべきだと思います」
「それは駄目です」
大きな赤ちゃんをあやしていた和田夫人が叫んだ。
「私は無知な田舎者でございますから」
「それでは尾崎夫人が司会なさるべきです。私たちはお宅に集まっているのですから」
「皆様、お許し願いとうございます。ご存じのとおり、私にこんな集会に出たことがございません。どのように会をすすめていったらよいのかまったくわかりません」
尾崎夫人は青ざめておっしゃった。
「では私たちがお教えいたします」と一人が言った。
尾崎夫人は不愉快な顔をなさり始めたので、一同は、ふたたび笠原夫人に向かった。
笠原夫人は、本当は最初から司会することを期待していたにちがいないのだが、しぶしぶ司会を引き受け、何度も途中で、「このようでよろしいのでしょうか」「間違っておりませんでしょうか」とたずねた。
私はオルガンを弾いた。
それから司会者が祈り、そのあと、ルカ伝第四章を読んだ。
次に一まわり祈祷が続き、ふたたび歌ってから、和田牧師の日課についての講話があり、そのあとで茶菓が運び込まれ、ふたたび四方山の話になった。
お客様はそれぞれ山盛りの五目寿司をいただいたが、五、六さじで十分おなかがいっぱいになる。
何人かは紙に包んで袂に入れた。
内田夫人は、私にもそうするようすすめられた。
でも私には入れる袂がない。
家に着いだのはまさに六時であった。