Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

帰ってきたクララの明治日記 第14回−3

1884年7月18日 金曜
今朝は五時半に起きて、おたてさんの葬儀のための準備をしていた。
兄は一晩中、勝邸に留まった。
昨日小鹿さんがひどい持病を起こして、しばらくはもうだめかと思われたからであった。
私たちはこの親切な友人たちのために本当に同情の念を禁じ得ない。まるで邸内に一人の死者があるだけでは足りないように、もう一人が瀕死の状態にあるとは……。
人々が家に群がっていた。友人や親戚や従者たちが。
僧たちが一室で死者のために経文を唱えている一方、隣室では医者たちが、一つの尊い生命を救うために医術の及ぶ限りの努力を傾けていた。
その混雑と騒音は恐ろしいばかりで、誰でも気分が悪くなるほどであった。
クレッカー夫人と、あと二人のクリスチャンの友人が夕方訪れて、アディと私に加わり、小鹿さんの命をお助けくださるよう熱心に祈った。
小鹿さんは今日は少し良くなったが、今朝おたてさんが、かつて美しい花嫁として入った入口を箱に入って出られた時、最後の別れをするために、数人の女中たちに支えられ、お床からよろめき出た時の顔色はまさに死に神そのもののようだった。
そんなに青く、弱々しく、やつれ果てて。


六時半頃、勝夫人は私たちを迎えに人を寄こされた。
行ってみると大勢の人が忙しく右往左往していた。
勝氏でさえ、引きこもっていらしたところから出て来られた。
そして時々、普段着のままで現われ、哲人のように、これらすべての変化に堪えておられた。
勝氏は特にアディの背が高くなったことに驚かれ、姉より背が高くなったと云われた。
やがて私たちは家の正面に案内されたが、そこには馬車が待っていた。
アディと私は七郎と一緒に乗った。
行列の人数は約千人だと七郎が言った。私たちは桜井家の後に続いた。
勝夫人はご子息とともに後に残られた。
小鹿さんの代理で、喪主をつとめるお逸の旦那様、目賀田種太郎氏を除いては、内田夫人、梅太郎、七郎の三人だけが勝家を代表した。
墓地に着くと、仮小屋が作られていて、九人の憎が誰も理解できない言葉で、無意味な法要を行なっていた。
次に皆新しいホトケ、死者の霊に焼香をするよううながされた。
内田夫人や、梅太郎まで焼香に行かれるのを見て残念に思ったが、確かにこの二人はお祈りをしながら行かれたことを私は知っている。
神のみが彼らを裁く方である。
私も数回乞われたが、ただ理由を説明して断った。
それは死者への愛と尊敬がなかったからではない。
お気の毒に今あの方は、このような無益な儀式をどんなに悲しく見ておられることであろう。
火葬にしないで、普通の棺桶とは違う、長い箱に納められて、私たちの愛する母のお墓のちょうど反対側の地下に埋葬された。
勝夫人は母の近くでよかったと言われた。
私たちは僧の読経のうちにお棺が地中におろされるのを見た。
それから、こまつとアディと私はうちの墓地へ行き、亡くなった二人のことを話しながら、長い間泣いた。
そしてこの二人の天国での最高の喜びについて話し合った。
アディと私は、赤坂の緑の小路を通って歩いて家に帰った。七郎は私たちといっしょでなくても大丈夫だと思ったので。
ずっと近道をして誰よりも先に家に着いた。
大きな門を入り、勝氏のお家に行き奥様に挨拶し、小鹿さんのご様子をうかがった。
しかし私たちが姿を現わし、うちに入るために靴を脱いでいると、おゆきとおきくが走り出てきて私たちを止めた。
そして入口の段のところで私たちの方へ塩をまいた。
あとで、それは他の不幸を防ぎ、葬式に行って来た人を清めるためのものであることを知った。
また葬式が家を出る時、家を掃き清め入口の段にすっかり塩をまくのが習慣とも聞いた。
悲しい日であった。
どうぞ神様、勝家にこのような日が再び来るのはずっと先のことでありますように。
このお祈りをおききくださいませ。
奥に若奥様のおたてさんがいらっしゃらないのは、本当とは思えない。
ああ、あそこへ行ってあの方のおだやかなお顔や、やさしい微笑を見たり、大きなやわらかい真剣な目をのぞきこんだりできないなんて、どうして考えられよう。
またおたてさんは私の言うことをとてもよくわかってくださった。
私が不完全な日本語を話しても、あのお家の誰よりもよく、その意味を理解してくださった。
ああ、私の姉妹であり、友であった方。
どんなにこれから淋しいことでしょう。
よみがえりの時が来て、愛する母と並んで、立ち上がる時まで、神があなたの肉体にあの静かなお墓で休息を与え給え。
そしてあなたの魂を、天国における完全なる祝福の中に迎え入れ給わらんことを。
さようなら、やさしい友よ。
安らかに憩いませ。