Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第31回−1

1877年5月21日 月曜日
今日は木挽町にとって、華々しい一日だった。
というのは、海軍省が気球を上げたのでこの町が有名になったのだ!
この大行事が行われる広場には午前九時前から大勢の人が集まり、なんと午後四時まで待っていた。
うちの露台から広場がよく見えるので、友達が大勢来た。
おやおさんとおすみは無論授業後も帰らず、勝夫人は梅太郎とお逸を連れて来られ、杉田家の盛と六蔵ちゃんが田宮アイソウという名の若い医学生を連れてきた。
それに富田夫妻、ひろさん、滝村氏を加えて、十四人ばかり集まった。トルー夫人も生徒を連れて来られ、下の縁側に陣取った。
二階でお茶やお菓子を回しながら、広場の群衆のことを笑ったり冗談を云ったりして時を過ごした。
「人が豆粒のようですね」
富田夫人がそう云うと、おやおさんは穏やかに肯き、返す刀でにっこりと微笑みながら、凄いことを云った。
「うふっふっ、本当に一グラムの砂糖にたかる蠅のようですわ」
「……おやお様、流石にその発言はちょっと黒い誤解を招くかと」
流石は大君(タイクーン)の孫だ。
群衆の中には役者が五人いたのだけれど、彼らは眉を人妻のように剃っているので、編み笠を目深に被っていた。
「あら、あの年配の方、刀を差してみえるのかしら?」
おやおさんが首を捻ったが、その老紳士が帯に差しているのは傘だった。
「私は気球より、周りの人たちを観察している方が面白いわね。滑稽なことが一杯だから」
とは、お逸の弁。「でも、こんな私たちを観察している人がいるみたいよ」
隣の精養軒から双眼鏡やオペラグラスなどでこちらを見続けている人々がいるのに、私たちはようやく気が付いたので、簾を下ろした。
気球は本当に今まで見たこともないほど大きかった。
絹製――奉書袖にゴム塗りしたものだ――で、中に入れるガスは新橋から持って来たものらしい。
最初吊り籠に入れたのは砂袋だけだったけれど、やがて兵学校生徒が乗り、少し上がって行くと、群衆からどよめきや万歳や拍手が湧き起こった。それから彼が白旗を出し、気球はたぐり下ろされた。
乗る人を変えて、こんなことが数回繰り返され、何回かはとても高く上がった。
しかし六時にガスが抜かれて気球が萎むと、辛抱強く待ち、拍手喝采していた群衆は、満足げにくたびれた足を引きずって帰途についた。
同じ頃、うちのお客様も帰って行って、富田夫妻だけが残って夕食を召し上がった。
ヘップバン夫人と若夫人であるサム・ヘップバン夫人が午後、駅へ行く途中でお寄りになったが、サム・ヘップバン夫人は東京に越して来て、ミス・ヤングマンの旧宅にお住みになるそうだ。このように一日中お客が出入りしていた。
男女六人が祈祷会に来たが、外の騒ぎと中のお客のために、祈祷会は来週に延ばすことにした。
お終いに矢田部氏もみえて、十時までいた。相変わらず懲りない人だ。
ところで、若い男の子は本当にしようがない。
梅太郎は今夜泊まって行ったのだけれど、悪戯ばかりしていた。
<私の魔術師(チャーマー)>